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決して諦めないのが「カープの野球」(広島東洋カープ監督・緒方孝市)

2018年09月15日 公開

緒方孝市(広島東洋カープ監督)

いよいよセ・リーグ三連覇を目前に控えた広島東洋カープ。この球団史上初の快挙を演出したのが、2015年からチームの指揮を執る緒方孝市監督だ。緒方監督が常々、口にする「カープの野球」の中身とは? 

 

写真:大島拓也

 

育てながら勝つ

――カープが優勝へのマジックナンバー32を点灯させたのは8月15日のことでした。現在のチーム状況をどうご覧になっていますか。

緒方 過去2年、リーグを制したことで、選手一人ひとりが大きく成長している手応えがあります。田中(広輔)、菊池(涼介)、丸(佳浩)、鈴木(誠也)など打線の中軸を見ても、今年は怪我や不振もあって本人たちは数字に納得していないかもしれませんが、この3年間で球界を代表する選手に成長してくれたと思います。

その一方で、カープは同時に育成も行なわなければならないチームでもあります。マネーゲームを避ける球団の方針としてFA(フリーエージェント)制度による選手獲得や大型補強を行なわないからです。必然的に他球団とは異なるチームづくりが求められるわけで、私自身、「育てながら勝つ」ことを強く意識しています。

――近年のメジャー・リーグでは、複数の有望な若手選手を獲得する代わりに主力選手を放出する流れがあります。「育成」のために「勝利」を度外視しているわけで、それほど両者の両立は難しいといえます。

緒方 どちらを優先すべきかといえば、もちろん勝利です。「ファンあってのプロ野球」という言葉もあるように、カープファンが望んでいるのはつねに「勝利」です。ファンの誰もが三連覇を期待するでしょうし、われわれとしても、皆さんと一緒に歓喜の瞬間を迎えたい。

そして、勝利をめざすうえで欠かせないのが「新しい力」の台頭です。半年に及ぶ長いレギュラーシーズンを100%、同じメンバーで同じ勢いで戦い続けることはできません。他球団も「打倒カープ」を掲げており、研究されているからこそ育成によって新しい戦力を蓄え、厳しい戦いに臨む必要があるのです。

――今年、ここまで監督の期待に応えてくれた新戦力は誰でしょうか。

緒方 まず、アドゥワ(誠)ですね。彼は高卒2年目の19歳ですが、中継ぎ投手として開幕から一軍で投げ続け、登板試合数はすでに40を超えている。幾度もチームの窮地を救ってくれて、貢献度は計り知れません。

また、育成選手から上がってきたドミニカ共和国出身の(ヘロニモ・)フランスア。来日5年目の投手で今年25歳ですが、以前はストレートのスピードには目を瞠るものがあったものの、変化球や制球に難がありました。そこで身体づくりから始めて、昨年の秋季キャンプの時点で「面白い存在になるぞ」と期待できるところまで育ってきた。

そして今年5月、いよいよ支配下選手契約を結んで1軍で投げさせると、登板ごとに素晴らしいピッチングを見せてくれました。

――助っ人のはずの外国人すら「育てている」わけですね。フランスア投手は序盤では先発でしたが、いまや中継ぎの中心的存在。どの場面で登板させればもっとも力を発揮できるか、戦いながら見極めていたのでしょうか。

緒方 最初は先発投手が足りなかったので、うまくローテーションにはまって力を発揮してくれれば、という思惑がありました。ただし、やはり粗削りな部分がある。そこで2軍での再調整を経て、可能性を拡げるために中継ぎで試したところ、見事に結果を出し続けてくれました。

どんな強打者だろうと臆せず向かっていく彼の投球スタイルは、終盤の緊迫した場面になるほど生きてきます。そう考えて、いまでは7、8回の勝敗に直結する場面で投げてもらっています。これはひとえに、彼が首脳陣の信頼を実力で掴み取ったからにほかなりません。

 

めざす「カープの野球」とは

――監督は試合後のコメントなどでよく「カープの野球」との言葉を使われますが、具体的にはどんな野球をめざしているのでしょうか。

緒方 カープといえば、古くからのファンなら「守りと機動力を中心とした野球」を連想されるかもしれません。たしかに私自身の体にもしみついているカープの伝統であり、めざすべきかたちであることは間違いない。

ただ、私は「カープの野球」という言葉を、もっと大きな意味で使っています。

われわれは選手も首脳陣も143試合、つねに全力で勝利を追い求めています。それでも相手チームを上回ることもあれば、こちらの状態が悪かったり、アクシデントに見舞われたりして負けることもある。結果は誰にも保証できないのです。

しかし、ファンはつねにカープが勝つ姿を期待して球場やテレビの前で応援している。私はそんな方々が試合後に何を感じるか、という点がもっとも大切だと考えています。もちろん勝利がベストですが、たとえ敗れても「また試合を観たい」「応援し続けたい」と思っていただくには、ゲームセットの瞬間まで気持ちをいっさい切らさずに戦い抜かなければいけない。

当たり前の話と思われるかもしれませんが、じつは長いシーズンを集中し続けるということはプロでも難しい。それでも、諦めずに戦い続ける気持ちだけは一瞬でも失ってはならないのです。

――その想いのせいか、逆転勝利が多いのも近年のカープの特徴ですね。昨年でいえば最終回に5点差をひっくり返す試合があり(2017年7月7日、東京ヤクルトスワローズ戦)、今年も先日のヤクルト戦ではサヨナラ勝利で7点差を逆転しました(8月23日)。

緒方 そうした試合をファンは必ず覚えていて、「カープの試合は何が起きるかわからない」と、最後の最後まで期待して応援し続けてくれるわけです。そしてその声が選手を後押しして、ファンとのあいだに相乗効果を生み、時として信じられないような劇的勝利に繋がることが実際にあるのです。

選手も人間ですから、大きな点差がついた試合では気持ちが切れそうになることもある。そのときに支えになるのは、ファンの存在です。だからこそ劣勢でも声援を送り続けてもらえるように、諦めずに戦い抜く姿をこちらから見せなければいけない。そんな思いを込めて「カープの野球」をやる、といつも口にしているのです。

 

(本稿は『Voice』2018年10月号、緒方孝市氏の特別インタビュー「三連覇で広島に勇気を」を一部抜粋、編集したものです)

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著者紹介

緒方孝市(おがた・こういち)

広島東洋カープ監督

1968年、佐賀県鳥栖市生まれ。86年にドラフト3位で広島東洋カープに入団。俊足、強肩、強打の外野手として長く主力を務めた。盗塁王3回、ゴールデン・グラブ賞5回。通算成績は出場 1808試合、安打 1506本、本塁打 241、打点 725、通算打率 .282、盗塁 268。2009年に現役引退後、コーチを経て15年に監督就任。翌16年にチームを25年ぶりの優勝へ導き、17年には37年ぶりの連覇を果たした。

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