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ドイツで台頭する目に見えない排外主義

2018年10月07日 公開

深井智朗(東洋英和女学院院長)


 

著書『プロテスタンティズム』(中公新書)で読売・吉野作造賞を受賞した深井智朗氏。東洋英和女学院で院長を務め、プロテスタンティズム研究の大家である深井氏が、いまドイツで起きている地殻変動について「宗教的地政学」の観点から分析する。

 

なぜルター派の教会に行く人びとが増えたのか

ルター派の政治的保守性を象徴する考えとして、「上に立つ権威(die Obrigkeit)」に従うという聖書の言葉の特殊な解釈がある。ドイツ語でdie Obrigkeitは「上に立つ(者の性格)」というような意味であろう。

王や政治的支配者、あるいは政府のみならず、お役人などの意味ももつ。聖書の「ローマの信徒への手紙」の13章にこういう言葉がある。

「すべての人は、上に立つ権威に従うべきである。なぜなら、神によらない権威はなく、おおよそ存在している権威は、すべて神によって立てられたものだからである。したがって、権威に逆らう者は、神の定めにそむく者である」

ドイツのルター派はこの「上に立つ権威」への従順を、宗教的命令であるだけではなく、政治的責任とも理解し、既存の政治的支配者と「共にある教会」であり続けてきた。

この教えの解釈によれば、教会だけが神からの使命を与えられた地上における唯一の宗教的機関であるのではなく、政治的支配者もまた神からの宗教的使命をもった統治システムなのである。

教会も政治的統治者も神によって立てられたものであり、政治的支配者もまた宗教的システムの担い手であるというルターの聖書解釈が、ルター派という宗教の政治的特殊性を生み出した。これを「二統治説」と呼ぶ。

その意味でドイツのプロテスタント教会は最大の保守勢力だ。憲法の保障のもと、住民台帳に基づいて教会税を税務署に代理徴収してもらい、公立学校での宗教教育を主導している。

国教ではないが、それに近い特権をもち、国民の約30%が信者である。メルケルはこの教会の動向を強く意識しているはずだ。

興味深いデータがある。極右政党とされる「ドイツのための選択肢(AfD)」が結成されたのと同じ年、2013年の統計によれば、ドイツ・ルター派における1年間の日曜日の礼拝出席、また教会が主催するさまざまな集会やイベントに参加する信者数は3%増加した。

とくに都市部でその傾向は顕著で、子育て世代の出席が増加している。緩やかな増加はすでに10年以上前から始まっていたのだが、近年その傾向は顕著だ。

じつはプロテスタント教会の礼拝出席は1960年代以降急速に減少し、毎週日曜日に教会に行く人は信者全体の1%を大きく割っていた。ところがドイツ再統一後、減少から増加に転じ、1990年代後半には数字の上でも確認できるようになった。

なぜドイツ・ルター派の教会に行く人びとが増えたのか。その答えは意外なもので、多元化するドイツ社会に人びとがある種の疲れを感じ、ルター派の教会に心の避難所を求めたからだ。

ドイツ・プロテスタンティズムの保守性とは >


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