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それでも世界は幸福に向かう

2018年10月09日 公開

スティーブン・ピンカー(ハーバード大学教授)

取材・構成・写真:大野和基(国際ジャーナリスト)

 

暴力は減少している

――(大野)ピンカー教授の最新作である“Enlightenment Nowが世界中で耳目を集めています。本書は、“The Better Angels of Our Nature”(邦訳『暴力の人類史 上巻・下巻』青土社)の続編に当たると考えてよいでしょうか。

ピンカー そのとおりです。前作『暴力の人類史』において、私は普段執筆するテーマからの脱却を試みたといってよいでしょう。もともと私は認知科学者であり、言語と思考に関心がありますが、Human nature(人間の本性)そのものにも興味があります。

The Blank Slate”(邦訳『人間の本性を考える――心は「空白の石版」か 上・中・下巻』NHKブックス)では、「暴力の起源」についての章がありますが、暴力はどの社会にもある普遍的なものであり、進化の産物であり、人間には生得的に暴力的になる傾向があると主張しました。

ただ私は、本来暴力的な人間にとって戦争や殺人は当たり前のことであり、それを減らそうとするのは不可能だから、受け入れるべきであるという意見については、理屈が通らないと主張しました。

そもそも人間の本性は複雑です。生得的に暴力的な行動をとる傾向が備わっていたとしても、自制心や共感、モラル、規範といった暴力から引き離す傾向も同じように備わっているのです。

そしてこのような異なる2つの衝動が特定の時間と場所でどれくらい強く出るかによって、暴力の頻度は変化すると主張しました。

――人間の本性は暴力的だが、それを封じ込めることは可能だ、ということですか。

ピンカー ええ。実際、人間は必ずしも暴力的な衝動にかられてやむなく行動するとは限らないことをわれわれは知っています。

人間は奴隷制度を廃止しました。イギリスの殺人率は中世から現代に至るまで劇的に減少しています。ソ連の崩壊にはほとんど暴力が伴いませんでした。

ですから私は、人間の本性をもってしても、暴力を減少させることは可能であると結論づけました。

こうした所見を10年前に「Edge.org」のサイトにアップしたら、多くの学者から手紙をもらいました。私が挙げた例よりも、歴史上には暴力が減少した例が数多くあるという内容でした。

殺人率が減少したのはイギリスだけではないとか、欧州のどの国でも戦争の割合が1946年以来劇的に減少しており、幼児虐待や配偶者虐待の割合も減っていると、それらの手紙には書かれていました。

私は、これらのデータを1冊の本にまとめることは価値があると思いました。もし人間の本性が何十年、何世紀という期間にわたって変化しなかったというのであれば、暴力の劇的な減少をどう説明したらよいのでしょうか。

それが『暴力の人類史』のテーマでした。本書の執筆は、ほとんどの人が気づいていない事実(暴力の減少)を示す経験的なデータに偶然にも多く出くわしたという驚きが元になっています。

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