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世界の暴力は減少している――『暴力の人類史』著者ピンカー教授が指摘



2018年10月09日 公開

スティーブン・ピンカー(ハーバード大学教授)

ジャーナリズムはよいことを報じない

――では、ピンカー教授の最新作である“Enlightenment Now” の執筆の動機は?

ピンカー 先の本を上梓したあと、人間のウェルビーイング(個人の諸権利が保障され、精神的、身体的、社会的に良好な状態にあること)にも興味をもちました。

たんに平和や安全だけではなく、栄養や寿命や病気、余暇といった面からも調査したいと思いました。長い時間をかけて収集したデータを見ると、人間のウェルビーイングはこのような面でも向上していることがわかります。

これは本を書くべき重要なテーマだと思いましたが、モダニティー(近代的なもの)の擁護と組み合わせて論じられるべきでしょう。

われわれが生きている時代は、科学や理性の台頭と並んで、権威やドグマ、宗教的な信条、超自然的なものを信じる心などの凋落によって特徴づけられています。モダニティーとは換言すれば、近代啓蒙思想とそれによって生じた変化だといえます。

これは非常に重要なことであると考えます。多くの知識人がモダニティーを攻撃するからです。ほとんどの人が世の中は悪化していると信じ込んでいますが、複数のデータを見るとジャーナリズムから受ける印象とは逆で、世の中はよくなっていることがわかります。

――そうした知見は珍しいというか、人類の未来について悲観的な予測をしている人のほうが多いと感じます。

ピンカー 1つは、ジャーナリズムがもっている性質の影響です。ジャーナリズムは悪いことは報じても、正しいことやよいことはそれほど報じません。墜落する飛行機は取り上げても、離陸する飛行機は取り上げない。

たとえば、テロリストに攻撃された都市は現地からライブ中継されますが、乱射事件が起きていない学校に記者が行って報道するようなことはありえないわけです。

――平和な日常はニュースにならないわけですね。

ピンカー 侵攻、テロ攻撃、戦争といった目を覆うような惨事は、あっという間に起きる可能性が高いのに比べて、人類にとってよいことは、1回で少しずつしか増えないということもあります。

生活環境の世界的な傾向の研究で知られるオックスフォード大学の経済学者、マックス・ローザー氏がいうように、「連日13万7000人が過去25年間極貧から脱出している」というニュースについて、新聞がトップ記事で報じることは絶対にありません。そのため、誰もそのことを知らないのです。

――ジャーナリストの一人として、自分にも責任があるように感じます。

ピンカー いえいえ(笑)、もともとジャーナリズムにはそのような報道姿勢が組み込まれているのです。そうした日々の報道から得られる印象とは異なる傾向が世界には存在することを受け手が意識しないかぎり、事実を把握することは難しいでしょうね。

(本稿は『Voice』2018年11月号、スティーブン・ピンカー氏の「それでも世界は幸福に向かう」を一部抜粋、編集したものです)



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