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岡田斗司夫「アイドル界に"身分制度"が誕生しつつある」

2018年12月21日 公開
2023年01月12日 更新

岡田斗司夫(社会評論家)

アイドルは世襲制か成り上がりに

僕は日本人ユーチューバーのほとんどは食えなくなると予測しました。中途半端にタレントぶったユーチューバーでは生き残れないんです。
同じことがアイドルについても言えます。

アイドルを応援するというメタゲームを楽しんでくれるファンがいますから、アイドルとして生きていくことはできますが、そのゲームの難易度はどんどん上がっていきます。圧倒的なカリスマ性を獲得してスターになれればよいですが、中途半端な人気で競争に勝つのは難しい。

「恋愛スキャンダルを起こして、左遷され、またセンターに返り咲く」という程度のゲームでは見向きもされなくなるでしょう。世間の注目を集め、アイドルとして生き残るのはどんな人たちか?

10年後のアイドルは、大きく2種類に分かれているはずです。

1つは、「世襲制アイドル」。
両親がスターであるとか、世界的に有名なユーチューバーだとかコスプレイヤーだとか。生まれた時からアイドルとして生きることが当たり前になっているアイドルです。世襲制アイドルは生まれた時点、あるいは生まれる前から話題にされるわけで、情報を社会に拡散する上で非常に有利な立場にあります。

もう1つは、「成り上がり型アイドル」。
「芸能活動を頑張って人気者になるのは当たり前じゃないか」と思われるかもしれませんが、歌やダンスを頑張ったところでアイドルになれるわけではありません。今のAKB48のメンバーでも、プロ並みにピアノが演奏できたり、憲法や哲学に詳しいことをウリにするようになっているじゃないですか。

今後、そういう傾向はますます強くなっていくでしょう。アイドルを目指してアイドルになるのではなく、何かの分野の第一人者になった人がアイドルになる。

「小説で芥川賞や直木賞を取った」「科学上のすごい発見をした」「世界的に注目されるスタートアップ企業を興した」「テニスで世界一になった」「フォロワー100万人の超絶イケメン/美女である」─―。それくらいの存在感を示さないと、アイドルとして認められなくなるのではないでしょうか。 
 

あらゆる人に平等なチャンスは「ない」

10年後のアイドルというのは、喩えるなら「イギリスの貴族」みたいなものかもしれません。イギリスの貴族には貴族の家系に生まれた人と、一代限りの爵位を授けられた人がいますが、アイドルもこういう「身分」になっていく。

今後、ぽっと出の人間がアイドルになるのはものすごく難しいでしょうね。

『ユーチューバーが消滅する未来 2028年の世界を見抜く』(PHP新書)で僕は、世界は「戦国時代」に入ったと書きました。これはあらゆる人に対して平等にチャンスが与えられているということではありません。

日本の戦国時代の武将には、武田信玄や織田信長がいますが、彼らは代々続く武家に生まれた人たち。豊臣秀吉のように何もないところから成り上がったイレギュラーなヤツもいますが、戦国武将のほとんどがそうではない。

昔、『スター誕生!』なんてオーディション番組があり、誰でも応募できるということになっていました。だけど、予選を通過できるのは「やっぱり!」と思える人に限られていました。

今後、ユーチューブやさまざまなソーシャルメディアがますます進化して、本当にどんな人でも番組を配信できるようにはなりますが、そこで注目される人は「やっぱり!」という人なんです。

「アイドル」と表現しましたけど、これは芸能という狭い分野に限ったことではありません。見た目やキャラクター、家系によって注目を集められた人が貴族となる、新たな身分制度が誕生しつつあるのです。

貴族であるアイドルだけが番組を持てる10年後、僕はどうしているでしょうかね。まだ生きていたとしたら、「アイドルなんてヤツらを信じるな!」というゲリラ番組を配信しているかもしれません(笑)。

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