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垣根涼介「信長は天才ではない」 直木賞候補作に込めた想い

2018年12月19日 公開
2018年12月19日 更新

垣根涼介(作家)

家臣にあれほど苛烈だった訳

――たしかに信長のような「天才」ならば、無意識のうちに人間の行動を縛る原理に気付いていたかもしれませんね。

垣根 いえ、僕は信長のことを天才とは思っていません。もし彼が本物の天才ならば、部下に裏切られて非業の死を遂げることもないでしょうしね(笑)。

むしろ物事の原理と組織構造の効率を愚直に、そして執拗に追及した男。それが僕の頭のなかにある信長像です。

そもそも最近、天才という言葉が安易に使われ過ぎでしょう。イチロー(シアトル・マリナーズ会長付特別補佐)はインタビューで「天才ですね」と水を向けられるとすごく嫌な顔をします。

絶え間ない努力や周到な準備の積み重ねで現在があるのであり、それを「天才」というひと言で片付けられるのは面白くないのかもしれません。イチローを安易な偶像に仕立て上げ、内面を掘り下げようとしないマスメディアもどうかと感じます。

信長も、ある1つの事象に対して執拗に考えられたからこそ、一定の成功を収めることができたのだと思います。織田という同族同士の土地に生まれ、いかに生き残っていくか考え続けざるをえなかった。それが結果的にイノベーションを生んだのではないか。

――信長は閃きで時運を切り拓いた人物として語られがちですが、そうではないと。

垣根 史料にも残るように、あれだけ部下に苛烈に接したのは、他人に対してもある意味で期待値が高かったからでしょう。

「リーダーである自分がここまで考えているのに、お前らはなぜ、こんなにも薄ぼんやりしているのだ」というのが、信長の偽らざる想いだったのではないでしょうか。

※本稿は『Voice』2019年1月号「著者に聞く」垣根涼介氏の『信長の原理』を一部抜粋、編集したものです。

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