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門田隆将 オウム死刑囚・井上嘉浩の5000枚の手記は何を語るのか

2018年12月26日 公開
2018年12月27日 更新

門田隆将(ノンフィクション作家)

恐るべき凶悪犯罪が二度と起こらないように

私は、その折々で、この原稿を書きためてきた。

問題は、オウム、そして井上らの側ばかりにあったのではなかった。坂本弁護士一家殺害事件、松本サリン事件、目黒公証人役場事務長拉致事件など、警察のオウム事件捜査の不備と怠慢が、あの地下鉄サリン事件という前代未聞の大事件を呼び起こしたことを、私はあらためて思う。

そして、司法の世界も、オウム裁判で杜撰さを露呈した。

検察も、裁判所も、事実認定より「初めに結論ありき」の“世論裁判”に終始した。それは歴史に残る汚点とも言うべきものだろう。

オウム事件とは、いったい、何だったのか。

当事者による膨大な手記と証言は、その「答え」を示してくれるのだろうか。

どこにでもいる素直な青年が、どういうきっかけで狂気の宗教集団に飛び込み、いかなる心の変遷によって犯罪に手を染め、そして、やがて元の人間性を取り戻していったのか。

そしてなにより、犯罪者側の視点、つまり、ひとりの元死刑囚に光を当てることによって、このような恐るべき凶悪犯罪が二度と起こることがないように後世に教訓を残し、同時に警鐘を鳴らすことは、果たして可能なのだろうか。

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