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門田隆将 すべての罪はわが身にあり――その言葉を嘉浩は何度もくり返した

2018年12月27日 公開

門田隆将(ノンフィクション作家)

「私が犯した過ちは、絶対にもうしないようにして欲しい」

私が、最高裁判決を前に、どんな日々を送っているのかを聞くと、

「私はオウムから脱会する過程で、チベット仏教を勉強させていただきました。これに、なぜもっと早く出会わなかったのか、と思うんです。いろいろな宗教の勉強も、ずっとしています。座禅については、今も進めさせてもらっています」

そんな話をしたあと、被害者のことと罪の償いについて、嘉浩は語り始めた。

「自分のやってしまったことの大きさを思い、自分にできることは一生懸命やって来ました。しかし、それでも、許せないというのが、当然だと思うんです。手紙も受け取ってくれない方もいます。その方には、もう手紙を出すこともできないし、ただ、私は、沈黙するしかないのか、とも思うことがあります。

私がどんなに反省しても、どんなに悔いても、被害者の方の苦しみを癒すことはできないし、時間を取り戻すこともできません。でも、それをつづけるしか、私にはないんです。被害者の方に対して、もう沈黙するしかないのか、と思う時は苦しいです。私は仏教でいう“因果”を考えています。せめて過去の過ちを未来において償うことができれば、と考えています」

特徴ある甲高い声ではあるが、それでも、できるだけ低い声で、嘉浩はそう語った。

「私が犯した過ちは、絶対にもうしないようにして欲しいと心から願っています。私の償いのひとつとして、若い人がカルトに引きずり込まれないように、できるだけのことをしたいんです。そのために、法廷でも、また、いろんな機会を通じて、そのことを訴えました。でも、まだまだ足りないと思っています」

嘉浩は、そう一気に語ると、

「私には、もう時間がないんです」

と言った。私は、2週間後に迫った最高裁判決が「死刑」、すなわち「上告棄却」であることを予想して言っているのだろうかと、ふと思った。

「時間がありません。私には、残された時間がないんです。ダルマとは、仏教では“法”ですが、正しさそのものも表わしています。他人に温情をもって接し、温情をかけることが人間として最も優れたおこないとされることで、“温情が最高のダルマ”という言葉があります。

私は、その温情という“絆”をオウムで切ってしまったのです。そのことが許せないし、悔やまれてなりません。私には、もう時間がない。かぎられた中であっても、できるだけのことをしたいと思っています」

嘉浩の話や文章には、時折、宗教的な言葉が混じってくる。しかし、嘉浩の場合、何を言わんとしているのかは、素人でも、なんとなくわかるような気がしてくるから不思議だった。

そこが、オウムの中で「井上教」とまで言われるほど、多くの信者を獲得した所以なのかもしれない。

それからも、面会室には、さまざまな言葉が飛び交った。とても、初めて面会したとは思えなかった。

通常より長い面会時間があっという間に過ぎた。30分ほどあっただろうか。いくら話しても、話し尽くすことなど、できるはずがなかった。

「そろそろ時間です」

刑務官に告げられた時、初めて私は時計を見た。すべてが一瞬の出来事のように思えた。
井上嘉浩
高校生時代の井上嘉浩と愛犬の太郎。空手好きの高校生だった。

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