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吉見俊哉 AIは「日本100年の計」を設計できない

2018年12月28日 公開
2019年01月08日 更新

吉見俊哉(東京大学大学院情報学環教授)

歴史とは非連続の空間

さて、AIは日本100年の未来を設計できるのか? これが今回の編集部からの問いだ。

結論からいえば、その答えは「NO」だと思う。

なぜならば、歴史は連続的には変化しないからだ。数週間や数カ月、3年や5年の長さならともかく、30年、50年、100年という長期でみれば、歴史には必ず非連続な断層が存在する。

たとえば、高度成長期の価値観と、2010年代の価値観は質的に異なる。価値の体系が、どこか途中で転換しているのだ。連続的なデータ空間という条件下で力を発揮するAIは、この質的な転換を予測できない。

同様の理由から、1789年のフランス革命や1914年の第1次世界大戦の勃発も、仮にその時代にAIがあったとしても、予測はできなかっただろう。1868年の明治維新にしても、同じ事がいえるはずだ。

歴史には、その構造が根本から変わる瞬間があり、その非連続性は、AIの予測が通じない世界である。というのも、歴史の主体は人間である。人間たちの行為が、歴史を内側から変えたり、変えなかったりする。これは一種の賭けなのであって、その結果をAIは予測できない。

幕末に活躍した志士、坂本龍馬や高杉晋作らは、多くが1830年代生まれの同世代人で、彼らの同世代的な連帯が、倒幕と維新を成就させた。

しかし、それは後世から見た「結果論」にすぎない。彼らは歴史を変えられたかもしれないし、変えられなかったかもしれない。どっちに転ぶか、最後の段階まで誰もわからなかった。

長きにわたる歴史では、非連続性を生むかもしれない危機がいくつもある。歴史とは、そうした危機とそれに遭遇した人びとの賭け、その結果として非連続的な切断が繰り返される過程だともいえる。この非連続性が生まれる瞬間は、事前に計算できるようなものではない。

そうした歴史の切断は、まったくもって泥くさい、人間的な瞬間なのであって、この瞬間を理解するには、そうした出来事の現場に身を置く、つまりそこにいた人びとの立場に立って歴史を現在として生き直すしかない。

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