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日大タックル事件と福知山線脱線事故は同じ構造?『軌道』著者が語る「失敗の本質」

2019年01月09日 公開

松本創(ノンフィクションライター)

個人に責任を押し付ける構造

松本創『軌道』――本書を読み進めるにつれ、JR西日本の「官僚主義」「無謬主義」「処罰主義」といった組織体制が浮き彫りとなっていきます。

【松本】 直接的な事故原因は高見隆二郎運転士(事故当時、23歳)のブレーキ遅れですが、その根底に、ミスを誘発するような組織風土があったことは間違いない。

「一人ひとりが高い安全意識をもてば、事故なんて起こらない」という精神論的な教育が幅を利かせ、失敗はすべて個人に償わせる懲罰的な仕組みが存在していました。

安全対策については、私鉄との競争もあって電車の速達化(高速化)を進める一方で、ATS(自動列車停止装置)の設置を先延ばしにしていた。

スピードアップや余裕時分の全廃、駅停車時間の短縮などを迫られる状況下、「ミスをすれば乗務を降ろされるかもしれない」というプレッシャーをかけられていた。これでは正常な判断力を失いかねません。

昨年5月、日本大学アメフト部の危険タックル事件が起こりましたが、福知山線脱線事故の状況と酷似していると感じました。

上からの過剰な圧力により、通常であれば行なうはずのないラフプレイをやってしまった。選手は過酷な精神状態にあったのでしょう。

しかも問題化すると、監督やコーチは保身からすべての責任を選手個人に押し付けようとした。まさに事故当時のJR西日本における組織のあり方と同じ構図です。

もちろん、法令違反やモラル違反に対する懲戒は必要でしょう。とはいえ、過剰に上意下達で、懲罰的な締め付けだけでは、現場を追い詰め、ミスを隠蔽させ、結局は正常な判断をできなくさせてしまう。

――脱線事故以降、JR西日本は旧経営陣の退陣をはじめとして、安全対策への予算配分と当該部署の権限強化、ヒューマンエラーでは処罰を与えない制度の導入などに取り組みました。同社は「変わった」と評価できますか。

【松本】 安全意識の向上や事故に対する捉え方など、一定の成果は出ていると思います。現在の経営陣には、さまざまな環境要因が結果としてヒューマンエラーをもたらすという理解もあります。

実際、アクシデントによる輸送障害を含め、事故の件数は減少している。豪雨や台風などの災害に備えて、早めに計画運休に踏み切るなど、安全への意識は確実に高まっていると思います。

一方で、2017年12月に起きた新幹線「のぞみ」台車亀裂問題は、新幹線史上初の重大インシデント(事故などの危難が発生するおそれのある事態)となりました。

本件では、車掌や保安担当など複数の社員が異変に気付いていたにもかかわらず、現場と司令員とのあいだでコミュニケーションの齟齬が生じ、互いに「相手が判断するだろう」と問題を先送りしてしまった。

そのようなヒューマンエラーが重なった結果、早期に走行を止めるという判断ができなかったのです。事故から学んだ安全思想や対策を、巨大企業の現場の末端に至るまで浸透させるのは容易ではないと感じています。

※本稿は『Voice』2019年2月号「著者に聞く」松本創氏の『軌道』を一部抜粋、編集したものです。



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