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テクノロジーで見出す少子高齢化からの成長

2019年02月04日 公開
2019年03月01日 更新

落合陽一(メディアアーテイスト)

落合陽一写真:吉田和本

日本が直面している人口減少と高齢化の問題、そして身体障害の社会への受容を、いかにしてテック(デジタル・テクノロジー)で解決していくか。落合陽一氏が説く明日の戦略とは。

※本稿は2018年11月14日に開催された産業交流展2018における落合陽一氏の特別講演「日本のイノベーション戦略と中小企業」より一部抜粋・編集したものです

 

自走・遠隔操縦の車椅子に適応する高齢者

近い将来に日本を再興するためには、このまま人口減少に対する撤退戦を続けるのではなく、あらためて勝ちにいくためのプランが必要です。そのプランを用意するために、まずやるべきこと。それは、われわれのマインドセットを変えることです。

海外では新技術が導入されるときに「人間にITを合わせるのではなく、ITに人間を合わせる」ような考え方をします。新しいテクノロジーが登場し社会のシステムが一新されたら、そこに人間が適応していくべきという価値観がある場所も多いでしょう。たとえばセンサーネットワークを使って省人化するヨーロッパの事例や中国の事例などいくつもの例があります。

一方で日本の社会は、人間がITに近づくのではなく、ITを人間に近づけようとする。もちろん、そこに日本独特の文化がありますが、しかしこれでは、余計な開発コストがかかってしまうことになる。

今の日本では、そのようなコストを捻出する人的余裕は多くないはずです。

現在の日本に求められている発想は、ヒューマン(人)で対応してきた問題をいかにAI(人工知能)やソフトウェアに代替させるかであり、むしろ人間のほうからテックの側に近づいていく必要があるのです。

こうした理解を広めるのは、じつはそれほど難しいことではありません。人間は経験がないものに対して恐怖心を抱きがちですが、高齢者の方を含めて直接テックを体験してもらうことで、そのような心理的な壁はすぐに取り払うことができると思います。

一例を挙げれば、現在、私たちのラボでは車椅子の省人化・自動化プロジェクトに取り組んでいます。最初は「人がいないと怖いわ」とつぶやいていた80歳のおばあちゃんが、自走する車椅子に「なんだか悪くないわね」と、ノリノリで乗ってくれるようになる事例もいくつか経験しています。

僕がお付き合いのある介護の現場では、業務時間の約15%が車椅子を押す時間に割かれていると言われます。これを自動化できれば、介護者の負担をかなり減らすことになるでしょう。

さらに、後ろから車椅子を押す必要がなくなるため、高齢者の隣で顔を見ながら会話しつつ移動することもできるようになる。技術導入によってコミュニケーションなどの本当にするべき業務に目をむけることができる。現在、そのための実装実験を私たちは進めています。

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