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日本の経済論争がこんなにも稚拙な理由

2019年02月25日 公開
2022年10月27日 更新

竹中平蔵(東洋大学教授/慶應義塾大学名誉教授)

竹中平蔵
(写真:永井浩)

<<30年余り続いた「平成」という時代。「失われた30年」などと言われるが、それは本当なのだろうか?

「平成改革の立役者」として時代の渦中に身を置いてきた経済学者・竹中平蔵氏。同氏が近著『平成の教訓』にて、「平成時代に本当に失われたもの」を検証している。ここでは、その一節を紹介する。>>

※本稿は、竹中氏の近著『平成の教訓』(PHP新書)より要約・抜粋したものです。
 

物価変動を差し引いたGDPで見れば、日本と世界の差は小さい

平成に失われたものとして、誰もが最初に思い浮かべるのは、日本経済の「力強い成長」だろう。「低迷」「停滞」「低空飛行」「失速」など表現はさまざまだが、平成時代を通して見れば、経済が長くそんな状態だったことに異論はあるまい。

そこで、1990年から2018年までの日本のGDPの変化(倍率)を、主要国の変化と比較してみよう。まず「名目GDPの変化」を示す。

(図表1)名目GDPの変化名目GDPの変化
日本は28年間に1.2倍しか増えていない。破格の伸びを示すのが中国で、じつに46倍に膨張している。これは世界の例外として脇におくとして、アメリカは3.4倍、イギリスも3.1倍と高い。ドイツは2.6倍と英米よりもやや低い。ところが日本は、そのドイツの半分にすら達していないのである。

これは、各国人・企業と同じように稼ぎ、同じくらい豊かだった日本人・企業が、28年後に英米の3分の1、ドイツの半分以下しか稼ぎのない、ひどい貧乏になってしまったことを意味するだろうか。

もちろんそこまでは、実感として落ちていない。

そこで、購買力平価(為替相場は各国通貨の購買力=物価の変動によって決まるとの考え方)を使って調整した「購買力平価による一人あたりGDPの変化」を図表2に示す。

(図表2)購買力平価による一人あたりGDPの変化
購買力平価による一人あたりGDPの変化
すると、日本は名目GDPの変化より大きくなり、年間に2.2倍に増えた。

各国は名目GDPの変化より小さくなり、アメリカ2.6倍、イギリス2.6倍、ドイツ2.5倍だが、日本よりは大きい。

日本の2.2倍は米英独の85〜88%だから、圧倒的に引き離されてしまったわけではなく、なんとかついていっている。

図表1で、地位が極端に低下してしまったように見える日本は、図表2では、そこそこ豊かでそれほど悪くない、穏やかに暮らしてきたではないか、という話になる。

これは、平成時代の非常におもしろい特徴の一つといえるだろう。

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平成に、世界に大きく遅れをとったのは、「物価」と「人口」が失われたから >

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