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30年で「高貯蓄キリギリス」から「低貯蓄アリ」となった日本人

2019年02月27日 公開
2022年10月27日 更新

竹中平蔵(東洋大学教授/慶應義塾大学名誉教授)

竹中平蔵

<<30年余り続いた「平成」という時代。「失われた30年」などと言われるが、それは本当なのだろうか?

「平成改革の立役者」として時代の渦中に身を置いてきた経済学者.竹中平蔵氏が近著『平成の教訓』にて、「平成時代に本当に失われたもの」を検証している。

そのうち、竹中氏は同書で、「勤勉」「貯蓄が多い」という日本人が自ら描く日本像は事実とギャップがあり、実際には日本人は"高貯蓄アリ"ではなく、"低貯蓄キリギリス"になっていると指摘する。ここでは、その一節を紹介する。>>

 

平成に、驚くべき速度で「家計貯蓄率」が失われていった

平成時代に失われたものの一つで、高齢化に強く関係しているのが「貯蓄率」である。

日本人は、各国からウサギ小屋と揶揄される狭い家に住み、働きアリや働き蜂のようにまじめに働き、せっせと貯金する。

イソップ物語の『アリとキリギリス』で、アリは夏の間も一生懸命働き、冬の食糧をため込む。これが日本人。

キリギリスはバイオリンを弾き陽気に歌って遊んでいるが、冬になって進退が窮まる。これが西欧の人びと。─そんなイメージを、大方の日本人は戦後の長い間、抱いていた。

ところが、日本の家計貯蓄率(家計の可処分所得に対する貯蓄の割合)は先進国でも突出して高い、というかつての常識は、平成時代にまったく通用しなくなってしまった。

日本が高度成長を始めた1960年代〜70年代後半までは、貯蓄率はたしかに突出して高く、74年には23.2%のピークに達した。このとき日本に次いで貯蓄率が高かったのは西ドイツだが、15%に達していない。

高度成長期は、所得の伸びに消費が追いつかず貯蓄率が高くなる。この時代の日本や日本人は、イソップ物語のアリと見て、たしかに間違いなかった。

しかし、87〜91年のバブル期に14%程度まで上がってからは、家計貯蓄率はおおむね下がり続けた。14年には▲1.0%とマイナスを記録した。

家計が貯蓄を取り崩して所得以上に消費したわけだが、直接的な原因は14年4月からの消費税率引き上げ前の駆け込み需要である。

16年には2%台に戻したが、依然として先進各国よりかなり低い。各国は16年にドイツ10%、フランス8%、アメリカ7%といった水準だ。いまや日本や日本人は、寒い冬に右往左往するキリギリスなのである。

高齢化とともに貯蓄率が下がり、マイナスにすらなりうることは、チャールズ.ホリオカ氏らが90年代から盛んに指摘していた。そのとおりだったが、多くの日本人には一気にそこに向かうという実感はなく、みんなかなり先の話と思っていた。

経済学者モディリアーニの「ライフサイクル仮説」によれば、家計の消費は、将来予測される所得を考慮して決まり、人びとは若いときの所得をすべては消費せず、一部を引退後の生活に備えて貯蓄に回す。

このことと、高齢化が進んで高齢の無職世帯(年金生活者)が増え、過去の蓄えを取り崩す生活が広がったことが、貯蓄率の急激で大幅な低下をもたらしたわけである。

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