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『ビハインド・ザ・コーヴ』監督が語る、反捕鯨プロパガンダとの戦い方

2019年03月06日 公開
2019年03月06日 更新

八木景子(映画監督)

外務省と水産庁という国内の対立構図

――日本がIWCから脱退を表明したことによる国際的な批判も耳にしますが。

【八木】 日本は欧米のことを気にしすぎている、と思います。国際機関であるIWCからの脱退を1933年の国際連盟脱退と重ね合わせるメディアもありましたが、両者は時代も背景もまったく異なる話です。

日本はこれまでのように、いかなる理不尽な扱いや圧力を受けても、ノーといわない国のままでいいのでしょうか。

欧米がつくった国際機関のいうがまま、不毛な会議に出席してお金だけ払うことが、日本の国益になるとはとうてい思えません。

日本政府や関係省庁は、IWC脱退の理由を国民やメディアに伝えられず、ネガティブな報道が大方を占めました。

商業捕鯨を再開した際、国内の捕鯨関係者が反対派の国や環境保護団体から圧力・妨害行為を受ける恐れがあります。捕鯨従事者や国民が不安にならないようにどんな対策を講じるのかがはっきり届いていません。

日本のIWC脱退後、噂に惑わされないよう私は、捕鯨を管轄する水産庁の長官に取材を行ないました。

南氷洋での調査捕鯨を中止する代わりに日本近海での商業捕鯨の再開を認める案は以前にもあった、と一般的に伝えられています。しかしそれは事実でない、と初めて知りました。

こうした情報の格差が、「以前のIWCの案を呑んでいればいまごろ近海では自由に捕獲ができたはずなのに、ずるずると対応を長引かせた挙げ句、南氷洋には行けなくなっただけで、今回の脱退にはメリットなし」と多くのメディアで批判される原因になっている。

――脱退によって何が変わるのかが国民に浸透しているようには見えません。

【八木】 国民が抱く素朴な疑問に対し、一般の民衆にまで伝えようとする対応がない。政府のIWC脱退の決断に関係省庁のプランが追い付いていないことが心配です。

むしろ、以前はその対応に疑問を抱いていた外務省では良い変化が見られます。

米紙『ニューヨーク・タイムズ』(2018年12月31日付)は社説に「日本よ、鯨の虐殺を中止せよ」との見出しを打ち、IWC脱退を「危険で愚かな動き」と批判しました。

日本の外務省はこれに対し、同紙に「日本のみを非難の的とするのは『不公平』で、日本の伝統・産業保護の懸念を軽視するのは無礼」と反論する記事を寄稿したのです。

さらに、『ニューヨーク・タイムズ』と同様に日本のIWC脱退を批判した『ロサンゼルス・タイムズ』に対しては、駐ロサンゼルス総領事が反論しています。

外務省はこれまで国際的批判を気にして、商業捕鯨再開を推進する水産庁と対立してきました。しかし今回は、外務省がしっかり仕事をしている。

水産庁には、今年7月からの商業捕鯨再開に向けて周到な準備を進め、国民や捕鯨従事者に不安を抱かせない発信をしていただきたいと思います。

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