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日本の命運を分けた開戦、対米通告遅延問題の責任はどこか

2019年03月07日 公開

大野哲弥(株式会社ライティング・アンド・ブレイン代表取締役)

大野哲弥写真:松野佳奈 聞き手:編集部(中西史也)

※本稿は『Voice』4月号、「著者に聞く」大野哲弥氏の『通信の世紀』を一部抜粋、編集したものです。

 

目的合理性に欠けた暗号電報

――本書『通信の世紀』では、通信史の一環として暗号史について詳細に述べられています。そのなかでも論争を呼ぶテーマに、1941年12月の日本による対米最終通告が、真珠湾攻撃開始後になってしまった問題があります。外務本省から電報を受け取る在米日本大使館員の怠慢が通告遅延の原因とされてきましたが、大野さんは本書でこの通説に疑問を呈されていますね。

【大野】 通告遅延の問題を大使館側だけに押し付けるのは誤りで、むしろ外務本省側の責任が大きかった、と私は考えています。

米国に対して交渉打ち切りを伝える「対米最終覚書」(第902号電、以下「覚書」)は長文だったため、14本の暗号電報に分けられました。

在米日本大使館には、13本目までは米国国務省に通告する前日に届きましたが、最後の14本目だけは当日の朝に到着しています。結論部分の機密が大使館から漏洩することを、外務本省が恐れたからでしょう。

この覚書の浄書(起案文書を照合し、正式な文書として確定させること)がすぐに行なわれなかったことや、米国が大使館より早く暗号を解読していたことが戦後にわかり、大使館員の無規律と怠慢が長年、指摘されてきました。しかし、本当に大使館員だけの問題だったのか。

――どういうことでしょうか。

【大野】 外務本省側の責任については、大きく2つ指摘できます。

1つ目に、暗号電報の形式的欠陥です。そもそも2400ワードで14本にも及ぶ「覚書」は、暗号電報として長すぎます。交渉打ち切りを伝える肝心な文章が最後にきており、目的合理性に欠けた電報といわざるをえない。

外務本省が「覚書」13本目までに、米国の交渉姿勢を批判する長文の電報を送ったのは、日本の中国・仏印からの完全撤退や三国同盟の無効化などを求めた「ハル・ノート」に対して、そうとうな屈辱を感じていたからでしょう。

電報の形式においては、文中の日付が日本時間なのか米国現地時間なのか定かではないものも紛れており、訂正電報で無駄な手間を取られることも少なくありませんでした。

2つ目は、送付電報の優先順位が大使館側に明確に伝えられなかったことです。

当時の外務省では、電報の優先順位が高い順に「緊急(extremely urgent)」「大至急(urgent)」「至急(priority)」と位置付けられていました。

ところが外務本省は、電信係員にとって優先度が明確ではない「very important」という用語を「覚書」14本目に使い、大使館職員に対する慰労電報を2本、最繁忙期に「大至急」指定で打電しました。不要不急の電報により、現場の解読作業は数時間遅れてしまいます。

――なぜ外務本省は、本来は用いない「very important」という用語を使ったのでしょうか?

【大野】 暗号電報の責任者であった外務省の亀山一二電信課長には、「この電報が届かないとまずい」という恐怖感があったのだと思います。

もし大使館側から何か問い合わせがあっても対応する時間がない、との焦りから、念押しするために「very important」という用語を使ったのでしょう。

しかし結果的に、電報本文冒頭が「緊急」あるいは「大至急」でなかったため、大使館側の電信係員が普通電として取り扱い、解読を後回しにしてしまった。

外務本省と大使館間のコミュニケーションを、明確なシステムとして確立できていなかったことが、最悪の事態を生んでしまったのです。



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