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“哲学界のスター”が語る、日本的仏教とドイツ観念論の決定的違い



2019年03月13日 公開

マルクス・ガブリエル(ドイツ・ボン大学教授)/取材・構成:大野和基(国際ジャーナリスト)

ニュースはほとんどがフェイクニュース

――日独両国民の世界認識の仕方は、異なっているわけですが、一方で私はあなたとの「連帯」が可能であると信じて、あなたが待つパリまでやって来ました。こうした「確信」はどこから来るのでしょうか。言い換えれば、道徳には普遍性があるということでしょうか。

【ガブリエル】 もちろんです。人間という動物は普遍性の源です。その点で私はドイツの観念論主義者です。

加えて普遍主義には、生物学的な基盤があります。よほどの変質者でないかぎり、誰も子供が拷問をかけられているのを見たくありません。そのような映像を見せられたら、日本人であれ、アフリカ人であれ、アメリカ人であれ、その残酷さにショックを受けます。

残酷さに対する即時の反応は完全に普遍的です。このように、人間の道徳観には普遍性があることを理解するのはとても簡単です。しかし、われわれはそれを異なる文化で覆います。

――あなたと私の「対話」は活字になり、日本の読者に読まれるでしょう。しかし、いまやインターネットに溢れる情報は膨大です。ロシアは意図的にSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)を通じて「フェイクニュース」を流し、ブレグジット(イギリスのEU離脱)にも影響を与えたといわれます。

【ガブリエル】 われわれがフェイクニュースと呼んでいるものは昔からあります。それはプロパガンダであり、操作にすぎない。

インターネットはたんに外国勢力が他の国の公的領域に介入するのを簡単にしただけです。だから、情報戦が起きるのです。

――EUもロシアにやり返しているという意味ですか。

【ガブリエル】 当然ながら、EUもプーチンの悪意あるイメージを創り出し、ロシアと戦っています。プーチンにはいろいろな面がありますが、ヨーロッパの主流メディアが描くプーチンは悪者のイメージです。

では、真のプーチンはどうやったら解明できるか。私は、それは不可能に近いと思います。メルケルや習近平、ドナルド・トランプのような人たちも、側近以外の者はその人物を本当に知ることは不可能でしょう。

たとえ事実があるとしても、『ニューヨーク・タイムズ』がドナルド・トランプについて日々報じているニュースはフェイクニュースです。

われわれが目撃しているグローバルな情報戦では、ほとんどのニュースがフェイクニュースです。

社会学者がそれを調査してから記事にしているわけではありません。何の理論にも調査にも裏付けされてない。そもそも、社会秩序の理論はいまありません。

――絶対的なスタンダードがありませんね。

【ガブリエル】 そうです。経済学者がいっているのも、根拠がない数学です。大企業は正確な数字を公表しません。だから、経済学者が本当のことを知りようがないのです。どうやってわかるというのでしょうか。

――フェイクニュースに抗する方法はありますか。

【ガブリエル】 調査報道があります。ですが、いまそれは危険です。真のジャーナリズムを追求しようとすると命を落とします。いわゆる自由世界では、物事を深く掘り下げていくと、職を失います。

本当に批判的な知識人や真のジャーナリストは命懸けでやらないといけませんが、命を失っても誰も気付きません。

――ドイツの連邦カルテル庁は、2月7日、フェイスブックのデータ収集について、大幅な制限命令を出しました。これをどう思いますか。

【ガブリエル】 ドイツは過去10年間、自分たちがやってきたことをうまく隠していました。

ドイツは現在、世界の重要なプレーヤーである印象をもたれていますが、人口8000万でしかない小さな国がどうやって世界のトップ5に入ったのでしょうか。それは自分たちがやってきたことを隠してきたからです。

ドイツの新聞のトップページにメルケルの顔を載せておけば、何が実際にドイツで起きているか誰にもわかりません。

そこにソーシャルメディアが入ってきたのです。ドイツ人のマインドや情報を研究するために入ってきたのです。だから、ドイツ当局は制限したのです。



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