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北朝鮮・偵察総局が主導する、大規模サイバー攻撃の真実

2019年03月20日 公開

古川勝久(国連安保理北朝鮮制裁委員会専門家パネル元委員)

 米朝関係改善の流れは頓挫しかねない

近年、とくに深刻な問題とされるのが、偵察総局が主導する数々の大規模サイバー攻撃だ。一連のサイバー攻撃には、情報収集活動のみならず、インフラの破壊、さらには大量の外貨の奪取という複数の目的があると考えられている。

これまでに偵察総局は、韓国やバングラデシュ、フィリピン、インド、チリなど、世界規模でサイバー攻撃を主導して、巨額の外貨を繰り返し奪取しており、被害総額は莫大である。

2016年、韓国のオンライン・ショッピング・モールがサイバー攻撃を受けて、計270万ドル(約3億円)が奪取された。韓国の警察当局は、これを偵察総局の仕業と断定した。

数々のサイバー攻撃の実行犯として、米政府が特定した中心人物の一人が、北朝鮮のハッカー、パク・ジンヒョク氏だ。

ソニー・ピクチャーズに対するサイバー攻撃などで有名になった「ラザルス・グループ」のメンバーである。

パクは、中国国内にある「チョスン・エキスポ」という会社を隠れ蓑として利用しつつ、偵察総局のサイバー攻撃に参画していた。

米政府によると、パクは仲間と結託して2015年以降、世界各国に対するサイバー攻撃を展開して、計10億ドル(1100億円強)以上の巨額の外貨の奪取を目論んでいたという。

なかでも、バングラデシュの中央銀行に対するサイバー攻撃では、8100万ドル(約90億円)を強奪した。制裁で外貨収入が激減したはずの北朝鮮にとって、かなり効率の高い外貨獲得手段であったことがわかる。

ほかにも偵察総局に関連する「Lab 110」や「APTグループ」が、2018年5月には、チリ銀行にサイバー攻撃を仕掛けて、1000万ドル(約11億円強)を奪取した。

さらに8月には、インドの銀行に対するサイバー攻撃により、計1350万ドル(約15億円)を奪取した。インドで奪取された資金は、28カ国で一斉に1万4000カ所のATMで現金として引き出されたという。

そのほか、マルウェア「ワナクライ」に感染したコンピュータのデータを暗号化して身代金を要求するというサイバー攻撃を世界中で無差別に展開したのも、偵察総局の仕業と米政府は結論付けている。

アジア地域では、2017年1月~2018年9月のあいだ、仮想通貨交換所が少なくとも5回はサイバー攻撃を受け、5億7100万ドル(630億円強)を奪取されたが、こちらも北朝鮮による犯行と米政府は判断している。

一連のサイバー攻撃は、偵察総局をはじめとする、北朝鮮の組織が主導した国家的犯罪ということになる。

今後、仮に非核化で進展があろうとも、北朝鮮がこのようなサイバー犯罪を続ければ、米朝関係の改善の流れは、すぐに頓挫しかねないだろう。

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