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直木賞作家・真藤順丈が『宝島』に込めた沖縄への思い

2019年04月12日 公開

真藤順丈(作家)

小説だから伝えられること

――沖縄では現在も辺野古移設問題などが取り沙汰されています。さまざまな立場や思想があり、ナイーブな問題も多い。執筆には難しい面もあったのでは。

【真藤】 僕が書くのはルポルタージュではなく小説ですので、現実の沖縄に対してはある程度の距離感を保つことが重要でした。

それでも『宝島』という作品を生むことができたのは、沖縄にルーツのない僕が「沖縄人として」書くという覚悟を据えたからだと思います。作中の語り部も土地のナラティヴだし。

こまやかな感情や人と人との関係性の描写も、沖縄という土地の真ん中に飛び込んだからこそ書けたと思います。もちろん「沖縄人になる」ために現地取材を重ねて、数え切れないほどの資料も読んだ。大袈裟にいえば作家生命を懸けて、沖縄という土地に向き合ったつもりです。

――その過程で、沖縄に関する「新たな発見」はありましたか。

【真藤】 基地問題1つとっても、単純に賛成・反対では割り切れない「襞(ひだ)」があるということでしょうか。

知れば知るほど、現在の沖縄ではさまざまな事柄が絡み合っていることがわかる。極論をいえば、簡単に白か黒かはっきりできる問題など1つもありません。

だからといって、県外の人間が「難しいことだから当事者に任せよう」と片付けるのも、正しい態度とは思えません。どうして現地の人びとは悲痛な声を上げているのか。

経済面でも政治面でも多くのことが雁字搦めになっているのはこの国全体の問題であると思う。「沖縄問題」とよくいわれるのは、実際は「沖縄に関する日本人の問題」なのだとつくづく感じます。

――標準的な学校教育では、戦後沖縄の歴史は「1972年に日本に返還されました」と簡単に済まされています。

【真藤】 沖縄の歴史こそが教科書で大きく取り上げるべきことなんじゃないかと思う。沖縄返還は、戦後日本の最大の節目となった出来事ではないでしょうか。

さらにいえば、「返還された」という事実の裏には数え切れない「語られていないこと」が潜んでいる。そうした「経緯」を語ることこそが小説の役割なんじゃないかと思います。たとえば作中では、1970年12月に起きた「コザ暴動」を描いています。

――沖縄の人びとがアメリカ車両や施設を焼き討ちにした事件ですね。きっかけはアメリカ軍人が起こした交通事故でしたが、背景にはアメリカ施政下における人権侵害に対する不満がありました。

【真藤】 焼き討ちといっても、死者が出ないようにしたり、車から延焼しないような配慮があったり、どこか不思議な秩序が働いていた。あの出来事を「点」ではなく、そこにいたるまでの「線」の収束として書くのが、経緯を書くということです。

もちろん、本土の人間が沖縄の問題をつねに「自分ごと」として捉えるのは難しい。経験してきたことも享受できる情報も異なります。

ただし、沖縄で起きる問題を考えるときに、結論はどうであれ、まずは現地の人びとの気持ちや辿ってきた歴史に想いを馳せてほしい。難産だった本作を書き上げられたのは、そんな想いが原動力になっていたかもしれません。

――本作の魅力は、登場人物を通じて沖縄の人びとの気持ちに「自然と」寄り添える点だと感じました。

【真藤】 それが小説の力なんじゃないかと。今作でいえば「親米か反米か」「右か左か」といったイデオロギーの問題に収斂しない、いろいろな声が多重的に聞こえてくる物語をめざしました。

虚実の重なり合いのなかに人びとの実生活を躍動させる。事実の積み重ねからはこぼれ落ちてしまうものをすくい上げる。それが小説家として挑戦し続けるべきことであると、あらためて想いを強くしました。とはいえ当然ながら、最終的に作品から何を感じるかは読者に委ねたいです。

 

沖縄の「壁」は動いている

――物語が幕を閉じた1972年の沖縄返還から、すでに40年以上が経ちます。現在の沖縄についてはどうみていますか。

【真藤】 「本土並み」が果たされていない以上は、アメリカの施政下にあった時代と変わらないようにも思えます。それでも誰かが声を上げることで、少しずつ世の中が動くこともある。

それこそ沖縄返還は、沖縄の人びとの営みの積み重ねが導いたものだと思いますし、そこにいたるまでの過程を描いたのが本作です。すべての問題を一気に解決することは難しいけど、少しずつ「壁」は動いている。それが返還後の沖縄ではないでしょうか。

ただ、沖縄の報道が少ないところはいまも昔も変わりません。日本全体で沖縄の問題を「自分ごと」として捉えるには重層的な情報が欠かせません。

県外の人間が沖縄について詳しく知ろうとすれば、自分からかなり前のめりになって取りにいかなきゃいけない。この状況を改善しなければ、根本的な解決には向かわないと思います。

――今後も社会問題を背景にした作品を描くつもりでしょうか。

【真藤】 世界的に不寛容や排斥思想がひろがっていると思います。社会や政治に目を向けても、ここ数年で憤りや違和感をおぼえることが増えた。僕自身、本作を経てこれまで以上にニュース番組を観ながら気炎を吐くようになりました。

それでも自分はエンタメ作家なので、現代社会を切り取ること自体が目的ではないし、政治家のように演説を打ちたいわけでもない。あくまでも小説家の立場から、社会の事象にレスポンスするような「物語」を紡いでいきたいと思っています。



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