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一般人の情報も盗られる?スノーデン氏が危惧した「ファイブアイズ」とは何か

2019年04月25日 公開
2022年06月23日 更新

小谷賢(日本大学危機管理学部教授)

ファーウェイ騒動はインテリジェンスの問題

日本でも昨年1月ごろからファーウェイ社の問題が盛んに報じられるようになったが、その危険性についてはすでに2012年に米下院の情報委員会で、ファーウェイ社、ZTE社が中国政府に情報を提供しているということが問題視されていた。

2013年にもイギリスの議会情報・安全保障委員会が同社をセキュリティ上のリスクであると指摘し、イギリス最大手の通信会社BTとの提携に難色を示した。

しかしながら当時のオバマ政権は中国に対してはやや及び腰であり、あまり積極的な手を打たなかったようである。2010年には重要インフラや企業情報の保護のため、新たなセキュリティ基準(NIST SP800-171)を導入しているが、それでも中国への情報流出は止まらなかった。

そのあいだに中国政府は、2016年12月にサイバーセキュリティ戦略を制定し、それを支える法制度としてネットワークセキュリティ法、サイバーセキュリティ法、そして2017年6月には国家情報法を矢継ぎ早に施行させた。

とくに最後の国家情報法は、民間企業や個人が国家のインテリジェンス活動に協力することを義務付けており、中国は法律によってファーウェイ社等、民間企業の情報を国家に取り込んだかたちになる。

中国側の認識としては、サイバー空間は民間企業の問題ではなく、国家が介入すべき領域であるということだ。

そうなるとそれまで自由なサイバー空間維持のため、表向きは介入を控えていたアメリカ側も黙ってはいない。この問題は次第にファーウェイ社を媒介にした米中の国家間対立の様相が濃くなっていく。

2018年1月には米上院の情報委員会において、米中央情報局(CIA)や連邦捜査局(FBI)などの情報機関が連名で、ファーウェイ社とZTE社の製品を使わないよう警告を発した。

トランプ政権成立以降、アメリカも中国への対策を次々に打ち出しており、昨年8月には2019年国防権限法を成立させ、中国に対抗していく姿勢を露わにした。

同法は中国を名指しした上で、アメリカの政府機関でのファーウェイ社、またはZTE社で生産された通信機器の調達や使用を禁じている。

ここで着目すべきは、同法の管轄が日本の経済産業省にあたる商務省ではなく、国防長官と国家情報長官にあるとされている点だ。

つまりアメリカ政府はファーウェイ問題を経済問題や外交問題ではなく、安全保障とインテリジェンス分野の問題であると捉えているのである。

このアメリカの方針にファイブアイズ諸国も追随し、日独仏等もアメリカ寄りの姿勢を示すことになった。さらに2018年12月には、カナダ当局がファーウェイ社の最高幹部、孟晩舟氏を逮捕するに至った。

これら一連の流れは、5Gという次世代の通信技術をめぐる覇権争いであると同時に、国家の安全保障やインテリジェンス上の争いでもあるということだ。

5G技術は今後、米軍のドローン技術にも使われる予定であるし、そもそも通信技術自体が軍事技術に不可欠なのはいうまでもない。

米中ともこの分野で後れを取れば、それが両国の安全保障問題に直結するため、お互いに譲ることはないだろう。

そうなると将来的に通信技術はアメリカのプラットフォームと、中国のプラットフォームに二分される可能性すら否定できない。

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