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経営陣の"叱咤激励”に追い詰められる現場… 「スルガ銀行の不正融資問題」の内幕

2019年05月17日 公開
2019年05月17日 更新

浪川攻(なみかわ・おさむ)

 

「叱咤激励」の裏にあったもの

過剰な融資ノルマが現場のプレッシャーにスルガ銀行は収益意識が極めて強く、実際、地銀のなかできわめて高い収益力を誇っており、銀行員の給与水準の高さも話題になっていた。これは、実績を大きく反映した給与体系がしかれていたからでもあった。

そうしたなかで、同銀行がシェアハウス案件に傾斜していくのは時間の問題だったとも言える。そして、首都圏の店舗を中心として、関係書類の改ざん、偽装を重ねた不正融資が蔓延することになっていった。

第三者委員会の調査報告書を読むと、その背景に過剰な融資ノルマ、営業現場でのノルマ達成に向けた異様なほどのプレッシャーがあったことが理解できる。

そして、もうひとつ見えてくるのは、営業部門に丸投げといえるほどの経営陣の無責任ぶりである。取締役会などは機能していなかったと言っても過言ではない。

営業部門を管掌する執行役員が審査部門のウォーニング(警告)を握りつぶして、とにかく、融資の実行に向けて、営業現場の尻を叩きまくった。その一面を報告書はこう記している。

「各営業拠点、個人ごとに営業目標を設定し、その達成に向けて執行会議やセンター長会議などで(営業目標の)進捗状況のトレースと叱咤激励が行われ、拠点レベルでは、『案件表』を作成させ、その具体的な達成に向けた指示、叱咤激励がなされていた。

当委員会が実施したアンケートにおいても、多数の行員が精神的圧迫を受けたと回答している。なかには『数字ができないならビルから飛び降りろ』と言われたという回答もあった」

報告書では「叱咤激励」という表現にとどめているものの、実際には恫喝まがいだったことは容易に想像がつく。

そして、善良な銀行員たちもそんな追い詰められ方をされるなかで次第に感覚がマヒし、不正を犯してまでも数字を挙げるという行動に傾いていったわけである。

その後の調査では、不正行為はシェアハウス案件にとどまらず、収益性不動産案件に広がっていることも判明している。結果として、スルガ銀行は、役職員の引責辞任、そして、1000億円超という巨額の貸倒引当金繰入を迫られて、2018年度決算では、巨額の純損失の計上を余儀なくされている。自業自得の顚末とはいえ、おそらくこの先、単独で生き残る道は途絶えかけていると言える。

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