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「2つの衝撃」を与えれば、部下は自分から動き始める

2019年05月21日 公開
2023年07月12日 更新

橋下徹(元大阪府知事/弁護士)



 

自ら実践するならとことん徹底的に

リーダー・トップが組織に自分の基準・軸を伝えることの重要性は近著の中で解説していますが、これは一言、二言、組織に命じただけではなかなか伝わりません。

まず、大前提として組織にメッセージを伝えるためには、「これでもか!」というくらい、細かいことにも徹底的にこだわり、繰り返し、繰り返し言い続けなければなりません。

そのうえで最も重要なことは、リーダーが口で言うだけでなく、自身で徹底して実践する姿勢を組織に示すことです。

僕は「税金の無駄遣いは許さない」という自らの基準・軸を、府市民に向けてと同時に役所組織にも発しました。このような僕の姿勢と大阪府庁・大阪市役所が税金の遣い方には厳しいというイメージは、世間にもある程度伝わっていると自負しています。

しかし、「税金の無駄遣いは許さない」というのは、どの知事・市町村長・政治家や政治評論家などのインテリたちも言うのに、いまだに税金の無駄使いが行なわれている役所が日本全国に多数あります。

では「税金の無駄遣いは許さない」というリーダーのメッセージが、本当に組織の基準・軸となり、それを組織的に実践できる場合と、そうでない場合の違いは何でしょうか。

これは、リーダー自ら、税金の無駄遣いを許さないということを徹底して実践しているかどうかです。「こんなところにまで気を遣うのか!」と、驚かれるくらい小さなところまで徹底しているかどうか。これも組織に衝撃を与える一つの方法です。

先ほど述べたのは、大きな事業を実現することによって、「こんなことまでできるのか!」という衝撃を与える方法。もう一つは「こんな小さなことにまでこだわって徹底するのか!」という衝撃を与える方法です。

僕は役所内の公用車の使い方や出張旅費、宿泊費について、細かな厳しいルールを決めて、自分自身もそのルールに則って公務を行なっていました。飛行機は知事や市長でも国際線の最上級クラスに乗ってはダメ。国内線ではエコノミークラス。どうしても上級クラスに乗りたければ自腹で乗る。

初めての海外出張のときはエコノミーで行ったのですが、到着後から始まる公務に備えることや、相手国への外交儀礼としてどうしてもビジネスクラスに乗って欲しいと言われ、海外出張の際はビジネスに変えました。

相手国のVIPに対して、今から会談を行なう相手(僕)がエコノミーに乗ってくるような人物だと示すことは、相手国に失礼らしいのです。

国内出張の知事宿泊費は、東京などの大都市は1泊1万3200円まで。それ以外の地方都市は1万1600円まで。海外出張の場合は、米国・欧州の大都市での宿泊費は2万9000円まで。アジアの都市(シンガポールを除く)は1万7400円〜1万9400円まで。

この金額では、とれるホテルも限られてきます。松井さんには「こんな金額じゃ東京では泊まれないよ」といまだに文句を言われています(笑)。ここはちょっと現実に合わせて変える必要があるでしょうね。

また公用車に乗って帰宅するときにも、私的(政治的)な用事が間に入る場合は、私設秘書の車に乗り換えました。議会中などは、待機時間が8時間なんてことも多々あり、途中で役所を抜けることもあります。そのときに公用車を使う場合にはすべてホームページに公開することにしました。

僕は24時間・365日、大阪府警に警護してもらっていた立場だったため、いったん私的なことで外出して、また役所に戻ってくる場合には警護に適している公用車を使わせてもらうことにしました。役所からフィットネスに行って、また役所に戻ってくるときなどです。しかし自宅に戻るときには、私設秘書の車に乗り換えです。

東京出張のときも、東京で私的(政治的)な仕事が入れば、帰りの交通費も宿泊費も自腹。役所の秘書も帰らせます。大阪では知事・市長交際費も廃止です。

他の自治体では数百万円からの予算があるところがほとんどです。甲子園などに出場した学校が、表敬訪問に来てくれた場合には、金一封を渡す自治体がほとんどですが、大阪では僕の汚い字のサイン色紙を渡していました(笑)。

こんな厳しいルールは大阪だけでしょう。はっきり言えば「やせ我慢」ですが、ここまで税金の遣い方にこだわっているということを、リーダー・トップ自身が示して実践すれば、組織も自ずとそれを実践していかなければという雰囲気になります。

「税金の無駄遣いを許さない!」と一言、言うだけでは、そのメッセージに魂は入りません。

口で言うだけでは部下は「腹落ち」してくれないものです。リーダー自身が、その基準・軸を徹底的に実践する姿を部下に見せて、初めて部下がついてきてくれます。

 

※本稿は、橋下徹著『実行力』(PHP新書)より、一部を抜粋編集したものです。

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