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なぜ今、シリコンバレーで働くべきなのか

2019年06月25日 公開
2020年07月21日 更新

酒井潤(シリコンバレー・エンジニア)

アメリカではリーダー論は流行らない

シリコンバレーで働く2つ目の理由は、優秀な人材のすぐそばで働けること。

アメリカ企業は、個が確立しているだけに全員がいわばライバル関係にあり、指導を受けられないというイメージをもつ人もいるでしょう。

営業職にはそうした面もなきにしもあらずですが、エンジニアの場合、書いたコードがオープンになるので、そもそもノウハウやスキルを個人のなかに留めておくことができません。

これが何を意味するかというと、誰でも優秀なエンジニアの書いたコードをみて、学ぶことができるのです。自分が開発したコードを真似されることもあるわけですが、それでも学びのほうが大きいと感じています。

日本企業の解雇規制は厳しいため、社内にいるのは優秀な人材ばかりとは限りません。新入社員が優秀な社員と一緒に働けるかどうかは運次第で、もし配属先の上司が“無能”であれば、成長は阻害されます。

年功序列の日本企業では、リーダー適性がないような社員でもなんとか管理職に育てようとする。最近では〝グーグル流”や〝スタンフォード流”のリーダー論やマネジメント論を解説した書籍が売れているようですが、アメリカではそうした類いの書籍はまったく流行っていません。

そもそもアメリカ企業では、仕事のできない社員は自然と淘汰されていきますから、リーダーは育てるものという発想がないのです。昇進していくのは、あくまで実績を残した一握りの優秀な社員だけです。

これは新入社員にとってはいい面もあります。なぜなら、入社後、すぐに優秀な人材と仕事ができるチャンスがあるからです。とくにエンジニアにとっては、スキルアップしやすい環境があります。

 

人びとが「ハイ」になっている

シリコンバレーで働く3つ目の理由は、夢があり、ワクワクし続けられるから。

たまに日本に帰って驚くのは、テレビ番組の内容の暗さです。

貧困老人、ネットカフェ難民、ブラックバイト、引きこもり、いじめ、派遣問題、覚せい剤の蔓延、不動産や株式投資失敗、各種の詐欺事件……

世の真実を伝えて警鐘を鳴らすという意味では、そのような暗い内容の番組も価値があるのかもしれませんが、なんだか他人の不幸をみて安心しているだけのようにも思えます。

芸能人の不倫問題を競って報道するのも、公共の電波を使ってまでやることなのでしょうか。

シリコンバレーのあるカリフォルニアは気候がよいこともありますが、それ以上に人びとが「ハイ」になっています。とにかくアクティブに動き、大きな声で語る人が多い。みんな大きな夢を語ります。それが個人にはとても刺激になるのです。

とはいえ、つねに解雇と隣り合わせという状態は、そうとうなストレスでもあります。チームや会社の状況が悪い場合は、足の引っ張り合いもある。

私も何度も自分の「手柄」を横取りされそうになりました。そんなときは、上司に「自分がやった仕事だ」と主張しなければなりません。

日本で働いていたころは、「言われなくても、気づいたことはやっておく」ことが美徳であり、当然とされていましたが、アメリカではまったく通用しません。

上司への嘘や言い訳は多いし、仕事は雑。一緒に仕事をしてやりやすいのは、確実に日本人のほうです。それでも私は前述の理由から、シリコンバレーで働くことを選択しています。

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