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そもそも「高齢ドライバー問題」は存在するのか?

2019年06月13日 公開

伊藤安海(山梨大学大学院総合研究部教授)

※画像はイメージです。

高齢者のドライバーによる事故が頻繁に報道されている。山梨大学大学院総合研究部教授で交通事故に関する問題に詳しい伊藤安海氏は、「“高齢ドライバー問題”というものが本当に存在するのかを考えてみる必要がある」と指摘する。どういうことなのか。報道されない交通事故の“真実”とは。

※本稿は月刊誌『Voice』(2019年7月号)伊藤安海氏の「高齢ドライバー事故をいかに防ぐか」より一部抜粋・編集したものです。

 

予想されていた高齢ドライバー事故の増加

今年4月19日、池袋で87歳の男性が運転する車が暴走し、男性と同乗者を含む8人が重軽傷を負い2人が死亡する凄惨な事故が起きました。

この事故然り、アクセルとブレーキの踏み間違いや高速道路の逆走、ドライバーの意識喪失と聞くと、誰もが「高齢ドライバー問題」を連想するでしょう。

しかしじつは、どれも高齢者に限った現象ではなく、どのような年代のドライバーも起こしている現象です。高速道路の逆走で検挙されたドライバーでさえ、その3~4割は非高齢者なのです。

交通事故を防ぐためには、ドライバーの年齢に関係なく、①ドライバーの運転技術・意識や健康、②自動車の機能や装備、③道路インフラや信号制御、④交通取り締まりや啓蒙活動、といったものが関係してきます。

どのような事故も、ドライバーの年齢に関係なく発生している以上、そもそも「高齢ドライバー問題」というものは本当に存在するのかを考えてみる必要があります。

多くの方から、「認知症ドライバー問題こそ高齢ドライバー問題だ」といった答えが返ってきそうです。ところが高速道路を長時間逆走した認知症ドライバーの多くは、若年性認知症である前頭側頭型認知症だといわれています。

若くても発症し、記憶障害の少ない前頭側頭型認知症の危険なドライバーを発見するのにはどうすればよいのか。高齢ドライバー問題といわれている問題を「高齢」にとらわれず、多角的に見つめることで、悲しい交通事故を減らす方策を模索していきたいと思います。

私が1996年に警察庁科学警察研究所(科警研)に入所して最初に担当したのが、交通事故鑑定や交通事故解析です。

当時は、経験不足から予測注意配分、判断、操作ミス等が多い若年・初心ドライバーによる交通事故が社会問題となっていて、交通教育や交通取り締まりによる対策に期待が集まっていました。

しかし現在は、「交通事故の問題≒高齢ドライバー問題」といった論調です。

じつは免許保有者1万人当たりの交通事故件数は若年ドライバー、高齢ドライバー共に当時(1996年頃)と現在でほとんど変化は見られません。むしろ、この20年間で交通事故の第一当事者(加害者)になる確率はわずかながら若年ドライバーは増加、高齢ドライバーは減少しています。

わが国の人口ピラミッドと免許保有率の推移を見れば、(1996年当時に)その後20年で少子化により18~20歳の人口(最も交通死亡事故リスクの高い年齢層)が激減することで交通事故死者数が半減することは明白でした。

一方で、高齢化とその免許保有率の上昇にともなって高齢ドライバーによる事故が増加していくことは、新人の私にも容易に推測できました。

ただし、自動車安全装備の進歩等により、私の予想以上に交通事故死者が減少したことは本当に幸いな誤算です。

予想されていた高齢ドライバー事故の増加に対して有効な対策が実施されてこなかったのは、従来の警察交通科学は交通心理学と交通工学が中心だったため、健康問題と密接に関係する高齢ドライバー対策を本質的に行なうための医療との連携が決定的に不足していたからなのです。

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