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「羊が消えて警官が増えた」“ウイグルの中国化”が止まらない

2019年06月21日 公開
2021年07月29日 更新

福島香織(ジャーナリスト)

 

ホテルの出入口でX線と金属探知ゲートのチェック

ネットで予約したヌルランホテルに到着すると、出迎えてくれたのは防
刃チョッキを着たウイグル人女性警官だった。

ホテルに入るには、まず荷物と身体チェックが必要だった。空港にあるようなX線の透過装置と金属探知機のゲートがホテルの入り口にも設置され、出入りするたびに必ずチェックを受けなければならない。中国では特別の厳戒態勢が敷かれたとき、たとえば国際会議や要人の宿泊に際しては、ホテルでこうした徹底した安全検査設備を設置することは知っている

が、カシュガルではこれが日常、スタンダードらしい。ウイグル人女性の警官がかわいくて愛想がよかったのが、少しだけ物々しさを緩和していた。

あとで街を散策して分かったのだが、ホテルどころかスーパーも地下道も、ショッピングモールも、バザールも必ず出入口でX線による安全検査と金属探知ゲートによるチェックが求められた。

その近くには、防暴用の盾をもった警官が控えている。出入りするたびにピーピー鳴るが、引き留められたことはなかった。ただウイグル人の若い男性は、時おり警官から職質を受けていた。

 

コンビニ以上に多い「便民警務ステーション」

警官の多さに慣れてくると、次に気になるのは便民警務ステーション
の多さだ。「便民警務ステーション」とは、いわゆる交番。中国の新聞で
は「町の灯台」などと紹介されている。

建前では市民の便利のために設置されており、雨が降れば傘を貸してくれるし、気分が悪くなれば薬をくれる。喉が渇けばお茶を出し、体の不自由な人のために車いすの貸し出しなどもしている。

白い建物に青いペイントの存在感ある〝交番〞が、東京の繁華街のコンビニ以上の密集度で建っている。もちろん建前は「市民のための町の灯台」である便民警務ステーションだ

が、本当の目的は、市民のなかの不穏分子に対する威嚇と監視だ。

私が泊まっていたホテルは解放北路に面するエイティガール寺院の近所だが、解放北路にはだいたい100mごとに便民警務ステーションが立っている。そしてその便民警務ステーションのあいだには、無数の監視カメラ。

これも数十mに数個の割合で設置されていた。壊れたまま放置されているものもあったので、全部が全部機能しているわけではなさそうだが、「監視しているぞ」というプレッシャーは十分に発揮されている。

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