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日米安保条約に潜む「アメリカが日本を助けない理由」

2019年07月05日 公開
2022年07月08日 更新

北村淳(軍事社会学者)

北村淳(軍事アナリスト)

<<米トランプ大統領が「安保条約の破棄を示唆」とのニュースが突如として駆け抜け、日本国民に衝撃を与えた。しかし、米シンクタンクで海軍アドバイザーを務めた軍事アナリストの北村淳氏によれば、安保条約が維持されていても、日本の危機に米軍は援軍を送らないと指摘する。

北村氏の近著『シミュレーション日本降伏』では、海洋進出を加速させる中国が魚釣島に侵攻した場合に、日本は短期間で降伏してしまうという衝撃のシミュレーションを展開し、宮古島や石垣島を含む南西諸島を守るための対策が急務だと指摘している。

日中両国の軍事戦力差を冷静に比較分析し、かつ国際社会における中国の立ち回り方も踏まえた結果に導かれたものだが、やはりこのシミュレーションにおいてアメリカ軍は日本の救援に動かない。

なぜなのか? 本稿では同書よりその理由の一端に触れた一節を紹介する。>>

※本稿は北村淳著『シミュレーション日本降伏 中国から南西諸島を守る「島嶼防衛の鉄則」』(PHP新書)より一部抜粋・編集したものです。

 

危険な「どうせ米軍が助けてくれる」の思い込み

自著『シミュレーション日本降伏』に示したように、海洋戦力では中国軍が自衛隊に対してかなり優勢であるという現実が存在しても「どうせ米軍が助けてくれるのだ」と考えているため、日本劣勢という事実に目を向けようとはしない。

そのような強力な海洋戦力によって、東シナ海を隔てて隣接する南西諸島や九州に軍事的脅威を加えられていても「どうせ米軍が助けてくれるのだ」と考えているため、脅威とは深刻に感じないのだ。

たとえ「中国の海洋戦力がますます強力になっているのに、対処しないで手をこまねいていてよいのだろうか?」という声が上がっても、「どうせ米軍が助けてくれるのだ」と考えているため、大変な努力を要する軍備増強など真剣に考えないのである。

同様に、自衛隊の軍備状況は日本防衛にとって心配のない状態なのか? という声が上がっても、「米軍と共通の主要兵器を持っている自衛隊は十分強い」と思い込み、「どうせ米軍が助けてくれるのだ」と考えているため、自衛隊の抜本的組織改革や装備体系の見直しなどを本気で実施しようとはしない。

日本政府・国防当局は「日米同盟にすがりつく」という国防戦略しか持たず、「日米同盟を強化する」という口先だけの国防政策しか実施できない、という国際的には恥辱的な状況に身を置いても、「どうせ米軍が助けてくれるのだ」と考えているため、国際軍事常識に照らして妥当なレベルの日本独自の国防戦略を策定せずとも、平然としていられるのだ。

要するにアメリカの軍事力に全面的に頼りきる、すなわち完全なる「米軍依存」状態にあるため「平和ボケ」に陥っており、平和ボケだからアメリカに全面的に頼ることに疑問すら生じない。

すると、ますます平和ボケが拡散し、その結果「米軍依存」が深化し、さらに平和ボケがますます蔓延する……という「米軍依存」と「平和ボケ」の無限ループに陥ってしまっているのが現在の日本の国防状況なのだ。

この「無限ループ」にとどまっていると、日本は自主防衛努力を完全に欠くことになり、アメリカの属国的立場から独立することは未来永劫、不可能になるのである。

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