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直木賞作家・朝井リョウが描く、“対立が削がれた時代”の息苦しさ

2019年07月10日 公開

朝井リョウ(小説家)

朝井リョウ写真:Shu Tokonami 

著書『何者』(新潮社)で直木賞を受賞し、人間関係や生き方にもがく若者を描いてきた朝井リョウ氏。近著『死にがいを求めて生きているの』(中央公論新社)では「対立」をテーマに、対極的な2人の登場人物から平成という時代を浮き彫りにする。著者自身が生きてきた平成をどうみるのか聞いた。

※本稿は月刊誌『Voice』(2019年8月号)、「著者に聞く」朝井リョウ氏の『死にがいを求めて生きているの』より一部抜粋・編集したものです。

聞き手:編集部(中西史也)

 

決められたレールがない心もとなさ

――本作は、8組9人の作家が「対立」をテーマに異なる時代を描く「螺旋プロジェクト」の一環として生まれました。先の平成という時代を担当された朝井さんは、どのような問題意識をもっていたのでしょうか。

【朝井】 企画当初は、何を描けばいいのかわからない状態が続きました。ほかの時代を担当している作家が次々にテーマを決めていくなか、平成における「対立」が思い浮かばなかったんです。

明確な問題意識をもって、というわけではなく、平成の「対立」が思い浮かばないということはすなわち平成は目に見える「対立」が削がれた時代なのではないか、だけど人の心自体は簡単に変わらないのではないか、と考えたところからプロットが生まれました。

――物語は、植物状態のまま病院で眠っている智也と、彼を見舞う友人・雄介を中心に展開していきます。

いわゆる「ゆとり世代」である2人の少年・青年時代の回想が巡るうちに、学校行事やテストで競争を重んじるリーダー気質の雄介と、冷静で世の中を冷めた目で見る智也の対照的な姿が浮き彫りになります。

【朝井】 濃淡はあれ、どの登場人物にも私の思いが投影されています。智也が要所で核心を突いたことを言う一方、雄介はアンチヒーローのように描かれていますが、雄介の言葉も私のなかから這い出てきたものです。

自分のなかで「もっと当てはまる言葉があるはず」と揺れ動きながら、キャラクターを形成していきました。

――運動会の棒倒しやテスト順位の貼り出しが廃止される描写は“競争より個性”を大事にする平成の時代性を表しているように見えます。

【朝井】 私の世代は、相対評価よりも絶対評価が重視されてきました。平成では対立をなくす動きが進んだことで、自分の価値を確かめることがむしろ難しくなった気がします。

外から何かを強制される苦しみとはたしかに縁遠いですが、決められたレールがない自由から発生する心もとなさには心当たりがあります。

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