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「慰安婦問題」にのみ“女性の人権侵害”を指摘する韓国の矛盾

2019年07月30日 公開
2022年12月21日 更新

櫻井よしこ(ジャーナリスト),洪ヒョン

 

歴史を直視しないのは韓国の反日勢力のほう

(櫻井)解決済みの歴史問題に拘泥し続ける文在寅大統領は、まさに「過去しか見ない」典型といってよいのではないでしょうか。

韓国の人びとはよく、日本人に対して「歴史を直視せよ」といいます。しかし、慰安婦問題に関して対日批判を繰り返す人びとのほうが、むしろ歴史の事実を直視していません。

たしかに戦時中、心ならずも慰安婦を務めた女性たちがいます。彼女たちは本当に気の毒だと思います。ただ当時、慰安婦だった女性の多くは朝鮮人ではなく、日本人でした。

歴史学者の秦郁彦氏によれば、朝鮮半島出身の慰安婦は全体の二割ほどで、大半の女性は日本人だったわけです。彼女たちが、生活のために慰安婦として働かなくてはならなかった。そのことを想像すると、本当に胸が痛みます。

しかし、慰安婦の女性たちの境遇に思いを致すことと、「日本政府が朝鮮人の女性を強制連行して性奴隷にした」という事実無根のプロパガンダ(政治宣伝)を認めることを、一緒くたにしてはなりません。

慰安婦が日本軍の強制による性奴隷ではなかったことは、日本やアメリカによる長年の歴史研究と調査の結果、すでに明らかになっています。さらに慰安婦が性奴隷などではなく、また女子挺身隊(戦時中の勤労奉仕集団)ともまったく異なることは、当時を生きた世代の日本人なら皆、常識として知っていることです。

安倍政権になってようやく日本政府も事実をもって反論する立場に転じましたが、反論が遅すぎるものですから、国際社会ではなかなか信じてもらえない。この点は私たち日本人も大いに反省すべきでしょう。

 

韓国は現代で起こる「女性の人権侵害」にも目を向けるべき

(櫻井)さらに、慰安婦問題に関しては「女性の人権侵害」という批判があります。

人権という枠組みで論ずるときいつも不思議に思うのは、何十年も前の女性の人権をこれほど熱心に問題視するのなら、なぜいまも続いている女性の人権問題にもっと注目しないのか、という点です。

たとえば現在、脱北女性の人身売買が中国で行なわれていることや、金正恩の独裁体制下で女性を含む多くの民衆の人権が侵害されていることに、なぜもっと目を向けないのか、ということです。

慰安婦問題も大事ですが、現在進行中の重大な人権をめぐる課題について、国際社会と共に解決する姿勢が韓国に求められます。

(洪)文在寅たちチュサパ(主体思想派:金日成がマルクス・レーニン主義を北朝鮮に適用したとする朝鮮労働党の「主体思想」を信じる人びと)の価値観の転倒、教養レベルの低さには恐るべきものがあります。

彼らは高校時代以降、少しも知的に成長せず、自由民主体制の経済・社会に適応できないまま「社会変革・革命」を追い求めてきました。学生時代から友人や先輩に誘われてマルクスを読み、とにかく金持ちは悪だ、という思想に感化される。

そこから一歩も成長せず、化石化したような人間が数多くいます。ものの見方が歪み、家族や友人ともまともに話ができない。

サイバー空間の仮想現実のような妄想のなかで、社会主義的なユートピアを夢想している。文在寅・任鍾晳(イム・ジョンソク:文大統領の秘書室長)はじめ、対北従属のチュサパは仮想現実のなかでもがく哀れな人びとだといえるでしょう。

(櫻井)しかしその仮想現実に生きるチュサパが、現実に文在寅政権の中核をなしています。そして、韓国を別の国に作り直しつつある。じつに恐ろしい現象です。

日本に対してはたいへん敵対的な姿勢を貫く一方で、北朝鮮については長年、理想の国であるかのように頭で思い描き、現実とは異なる虚像を内外に発信して、それがいまも続いています。

彼らは必ずしも、国民の大多数の支持を受けているわけではありません。にもかかわらず、左派系メディアの報道に引きずられる形で世論が形成されてしまそのような状況下で、韓国がまともな道に軌道修正することは可能なのでしょうか。

韓国の人たちが歪んだ現在の構造に気付き、精神的な軌道修正を図るためには、まず彼ら自身の考える力を引き出さなければならない、と考えます。

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