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辛坊治郎 「“自衛隊が地球の裏側まで”とは何だったのか」

2019年08月13日 公開
2022年07月08日 更新

辛坊治郎(大阪綜合研究所代表)

安保論争を政争の具にするな

――安全保障をめぐっては、米イラン関係が緊張するなか、ホルムズ海峡の民間タンカーを守る「有志連合」への参加を日本は迫られています。同地域に自衛隊を派遣することはありうるでしょうか。

【辛坊】 ホルムズ海峡への自衛隊派遣は簡単にはできないでしょう。法的要件を満たすうえで、日本には4つの選択肢があります。

1つ目は、不審船から民間船舶を守る海上警備行動に基づく護衛艦の派遣です。ただ、これは自衛隊法を根拠としており、日本以外の船舶は護衛できず、武器使用には制限が課せられています。

2つ目は、海賊の取り締まりを目的とした「海賊対処行動」です。ソマリア沖やアデン湾での海賊行為を取り締まるために整備された海賊対処法が適用されますが、その対象は海賊に限られ、軍艦などの外国政府船舶は対象外です。

3つ目は、2015年に成立した安保法制(平和安全法制)に基づく措置です。米軍などへの後方支援をするには重要影響事態、集団的自衛権による武力行使を行なうには存立危機事態の認定が必要です。しかし事態認定のハードルは高く、現段階で安保法制を適用することは難しい。

4つ目は、有志連合参加のために新たな特別措置法を制定する手法ですが、これは法整備に時間がかかり、安保法制のときのように国会は紛糾するでしょう。

――猛反対する野党の姿が容易に想像できます。

【辛坊】 立憲民主党の福山哲郎幹事長は、有志連合に日本が参加することは現行法制下では不可能だ、と発言しています。

しかし福山氏は以前、2015年9月11日の安保法制特別委員会を受け、自身の公式サイトでこう述べています。

「政府は『シームレスな法制』と言っていますが、地球の裏側まで後方支援をできるようにすることで、自国防衛を犠牲にしていることが明らかになりました」

自衛隊が「地球の裏側まで」行けるようになったというのなら、ホルムズ海峡にも派遣できるのではないでしょうか?

旧民主党や共産党の政治家は、安保法制を「戦争法案」と批判しましたが、そもそも自衛隊が果たせる役割は限られています。国の命運を左右する法整備を政争の具にしないでもらいたいですね。

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