Voice » 経済・経営 » 日本の生きる道は最低賃金引き上げしかない

日本の生きる道は最低賃金引き上げしかない

2019年08月09日 公開
2023年01月11日 更新

デービッド・アトキンソン(小西美術工藝社代表取締役社長)

デービッド・アトキンソン

最低賃金引き上げがイギリスでもたらした効果

――逆にいえば、最低賃金の引き上げが生産性の向上につながるといえるでしょうか?

【アトキンソン】 はい。なぜなら、最低賃金で労働者を雇用しているのは、そもそも生産性の低い企業だからです。最も生産性の低い層が対象となることで、確実な底上げが期待できる。

さらに、最低賃金で働いている人は消費性向が高いため、経済効果に直結しやすいことが確認されています。

賃上げによって労働意欲が上がり、新たな雇用が生まれる可能性もあります。

――エコノミストのなかには、生産性が高まるから賃金が上がるのであって、賃金を上げれば生産性が高まるというのは因果関係が逆だ、と主張する人もいますが。

【アトキンソン】 私は因果関係と相関関係を間違えている、と何度か指摘を受けたことがあります。

しかしここではっきりと否定しておきたい。海外の研究では、最低賃金の引き上げと生産性向上に因果関係があることがすでに解明されています。その指摘は勉強不足の証拠ですね。

私の母国イギリスでは、1998年に最低賃金制度を導入しました。それから毎年、最低賃金を引き上げ、20年間で2・2倍になりました。その後、イギリスがどうなったか。

1999年から2018年までに、1.7倍も生産性が改善しました。

また「The Impact of the National Minimum Wage on Profits and Prices, LSE」によれば、最低賃金導入による失業率の上昇はみられず、単価も上がっていない。

それに伴い、実質賃金が向上しています。最低賃金で労働者を雇っていた企業において、雇用の悪影響はみられず、むしろ人件費増加の対応策として生産性向上を試みたと決算の分析からわかっています。

生産性や最低賃金の議論においては、こうした研究結果の客観的分析が必要なのです。

Voice 購入

2024年5月号

Voice 2024年5月号

発売日:2024年04月06日
価格(税込):880円

関連記事

編集部のおすすめ

混迷の日韓関係、日本政府が行なった“手痛い悪手”

渡瀬裕哉(パシフィック・アライアンス総研所長)

辛坊治郎 「年金制度に打ち出の小槌はない」

辛坊治郎(大阪綜合研究所代表)
×