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令和の日本に急務な医療・介護産業の構造改革

2019年08月12日 公開

猪瀬直樹(作家・元東京都知事、大阪府・大阪市特別顧問)

猪瀬直樹

団塊世代が後期高齢者となる2025年には、さらに膨らむ国民医療費と介護費。われわれが、人生100年時代の後半を託すほかない医療・介護産業は、いまだ不透明な部分が多いと同時に、成長産業でもある──道路公団を民営化した猪瀬直樹氏が語る、令和の日本に急務な構造改革とは。

※本稿は月刊誌『Voice』(2019年9月号)、猪瀬直樹氏の「日本国・不安の研究」より一部抜粋・編集したものです。

 

人生100年時代の不安

日本のGDP550兆円のうちいまや1割の54兆円が医療(42兆円)と介護(12兆円)である。そこで雇用されている医師や看護師や理学療養士や介護福祉士などが600万人いる。

日本を代表する製造業、自動車関連の製造品出荷額は55兆円で、自動車産業の雇用550万人と肩を並べるまでに巨大化している。

そればかりでなく医療・介護はクルマと同じぐらい暮らしに密接な存在にもかかわらず、その内実がわかりにくい。

大半が税と保険で賄われていることにより、市場のチェック機能がはたらかない。

自動車の製造ラインはカイゼンやAI導入など効率化を高めることができるが、医療・介護は人件費の比重が7割にも達する労働集約型の産業である。

不安はもうひとつある。自動車産業は少子高齢化にともない国内市場は縮小していくしかないが、医療・介護は逆に間違いなく成長産業になっていくことだ。

そしてほんとうの不安は、人生100年時代の後半部分を不透明な医療・介護産業に託さざるを得ないところだろう。

 

10年間で3割増えた国民医療費

2020東京五輪を招致した際の目的のひとつは、なぜかいまはすっかり忘れられているが「都民・国民がスポーツに親しみ健康を維持し、膨ふくれ上がる国民医療費を抑制する」ことにあった。

国民の平均寿命は男81歳、女87歳と世界のトップクラスだが、健康寿命つまり日常的・継続的な医療・介護に依存しないで、自分の心身で生命を維持し、自立した生活ができる生存期間(定義――日常生活に制限のない期間の平均)、これは男72歳、女75歳でしかない。

健康な生活を続けられなければ、人生100年時代と謳われていても、ただ長生きをするだけではあまりにも寂しい人生だ。

いま国民医療費42兆円、介護費12兆円だが、団塊世代が後期高齢者となる2025年にはそれぞれ給付が48兆円、15兆円へとさらに膨らむと予想されている。

僕は団塊世代の筆頭で72歳、健康寿命の期限にすでに追いつかれている。国民・都民がスポーツに親しみ健康を維持する、は僕個人でも実感しているところだ。

8年前の64歳で人間ドックを受診したところ糖尿病の数値が少し高いと指摘された。

それでランニングを始めて、以来、いまでも毎月50キロメートルの走破達成を自分に課し、スマホに記録しつつ実行している。そのため血糖値はほぼ正常に近い数値を現在も維持できている。

初期の糖尿病は自覚症状がなく、放っておいて重篤化かすれば血管がぼろぼろになり、内臓や筋肉が壊死する怖い病気である。

腎臓透析患者は33万人いるが、ほとんどは糖尿病の悪化に起因している。腎臓透析は患者の自己負担はゼロに近く1人に毎月46万円(3.3万円×14回)、年間550万円の医療費がかかっている。

透析患者33万人に年間1兆8000億円の医療費が費やされているのは、国民皆保険制度のたまものではあるが、自覚的にスポーツをやるなど留意すれば(遺伝因子に起因するⅠ型糖尿病を除く)、悪化を予防できる可能性もある。

個人にふりかかる病に決して自己責任論を述べるつもりはないので、誤解しないでいただきたい。

麻生太郎財務大臣が昨年10月の記者会見で「(麻生さんの先輩が)自分で飲み倒して、運動も全然しねえで、糖尿も全然無視している人の医療費を、健康に努力しているオレが払うのはあほらしい、やってられん、といった」と話して物議をかもした。弱者への配慮を欠いた言い方なので批判を浴びたが、自分の病気はもし予防できるならそれに越したことはない。

もちろん予防医療については「長生きをすることで医療費がかかるタイミングを先送りしているだけで、生涯医療費が減るわけではない」との学説が医療経済学では定説とされていることも承知している。

ただこの学説をもって報われるはずの努力は放棄すべきではないし、医療費削減への取り組みを、よりよき医療のための医療制度の構造改革へと向けることと矛盾するわけでもない。

麻生発言は、保険料の成り立ちについては真実を衝いている面がある。

医療保険制度も介護保険制度も、医師・看護師・薬剤師・介護士など医療・介護従事者だけでなく、保険料の支払いサービスを受ける側(受診時の自己負担分の支払い者でもあり納税者でもある)も当事者であり、税金を投入する政府・都道府県・市町村も当事者である。

当事者としての自覚と相互のチェック機能があってこそ、成り立つ制度であるにもかかわらず、チェック機能がはたらきにくい。

そもそも専門家である医療・看護・介護事業者と非専門家である患者・被介護者との間には極端な情報の非対称性があり、対等になれない仕組みになっている。

この10年間に、GDPがほぼ横ばいであっても国民医療費は3割近く増えている。はたして高齢化だけが原因なのか。

ちなみに国民医療費42兆円を財源別にみると、税金(国庫10兆7000億円、地方5兆6000億円)が約4割、保険料(事業者8兆8000億円、被保険者11兆9000億円)が約5割、患者負担4兆9000億円で約1割の構成になる。

保険料といっても強制的に負担するものに変わりないから、名前は保険料であっても実質は税金と同じと考えてよい。

サラリーマンであれば自分の給与明細を見て、所得税同様に徴収される保険料の負担額が重くのしかかっているのがわかるし、病気ひとつしなくても自営業者は住んでいる市区町村から定期的に(強制的な)支払い額が通知されている。



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