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バブル崩壊の“後始末”を担ったトッカイの男たち

2019年08月23日 公開

清武英利(ノンフィクション作家)

「誰か」ではなく、「自分が」

――本作は、そうした清武作品の真骨頂ですね。トッカイの男たちや家族の苦悩や生き様がじつに生々しく描かれていると感じました。

【清武】当時は200近い金融機関が破綻し、膨大な数の人びとが破綻処理、債権回収に携わりました。

その回収相手には、住宅ローンサービスなどから286億円の融資を受けながら、プライベートバンカーやタックスヘイブンなどを活用して資産隠しをしていた西山正彦氏や、いまも7600億円の返済を求められている「ナニワの借金王」こと末野謙一氏などがいました。

そうした「バブルの怪人」を相手にする取り立ては、自分の存在を賭けた仕事です。「不良債権回収」という一言では語れない苛烈さがあった。

トッカイで働いた人間がどんな顔で、一人ひとりが家族とのあいだにどんな会話を交わし、何を思いながら職務に当たっていたのか。それこそがまず知りたいと思った事実なのです。

――バブル崩壊は平成を象徴する大事件だったのに、その処理のために身命を賭して働いた人たちがいたことが、いまではすっかり忘れられている気がします。

【清武】マスコミにも大きな責任があるでしょう。たとえば、大企業が社員を大量リストラして業績をV字回復させたとします。

もちろん、企業にも苦しみはあるでしょうが、リストラを叩いたメディアが部数増のために今度は大企業のV字回復を持ち上げている。「闇」と「罪」の部分から目を背けてはいけない。

その犠牲となって首を切られた人びとの声や暮らしの変化を顧みなければ、企業経営者にも社会にも反省は生まれません。舞台を変えて理不尽と悲喜劇が繰り返されるだけだ。

――トッカイの人びとは、それまで勤めていた会社も年齢もバラバラでした。周囲からは割の合わない仕事とも揶揄された。そんな彼らがなぜ1つにまとまり、「バブルの怪人」などを追い詰めることができたのでしょうか。

【清武】一言で表現するのは難しいですが、働く場所を選ぶ動機として、普通なら「いい仕事に就きたい」「高い報酬、好条件で働きたい」と考えるのは当然でしょう。

ただ、本書の登場人物の多くは「『誰か』ではなく、『自分が』やらないといけない」という、責任感や真面目さ、清廉な気持ちを自分のなかに発見した。どこにもヒーローなどいないのです。

しかし、自分のなかにこうありたい、と思う心はある。それが汚れ仕事をさせている。これは青春物語でも再起物語でもなく、不良債権回収という困難な仕事に正面から臨んだ、名も知れぬ男たちの重い問いかけです。「あなたならどうしましたか」という。

――自分に同じことができるだろうかと、読後、思わず天を仰ぎました。「失敗」と総括されることの多い平成ですが、そのような男たちがいたことは誇りに思いたいです。

【清武】事実に即しながら、当事者と書き手がこれでいいのか、良かったのか、と批判性をもって描く。ノンフィクションだからこそ、伝えられることが間違いなくあるはずです。

作り物の情報では、反省も感動も一夜限りではないですか。いま生きている人の苦しみだから、私たちも息苦しい。本当の喜びだから、いつまでも感じていられる。

家人から「溜息はつくな」と言われているので、溜息を心にとどめながら、後列の人や抵抗人を訪ねていこうと思っています。



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