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ジョンソン首相は連合王国、最後の首相に?

2019年08月26日 公開

岡部伸(産経新聞論説委員・前ロンドン支局長)

岡部伸※写真はイメージです。

EU離脱期限の10月31日までに、離脱を実現すると公言するイギリスの新首相、ジョンソン氏。反対の姿勢を強める議会に対しては、女王大権による「議会停会」という方法まで使って、離脱を推し進めようとしている、ともいわれる。イギリスが迎えた歴史的な大転換。その究極のリスクとは?

※本稿は、岡部伸著『イギリスの失敗』(PHP新書)より一部抜粋・編集したものです。

 

議会との正面衝突は不可避

ジョンソン首相は、EUが離脱案の再交渉に応じなければ、「合意なき離脱」に踏み切ると述べ、側近のマイケル・ゴーブ国務相は、「極めて現実的な可能性」として、準備を進めている。

ジャビド財務相は7月31日、「合意なき離脱」に備えて新たに21億ポンド(約2800億円)の追加予算を用意することを表明した。11億ポンドを重点分野に充てるため、即座に支出。残り10億ポンドは、必要に応じて投入する。

関税の発生や通関手続きで混乱が予想される国境周辺の職員の増強、国民への周知徹底費用に充てる。医薬品や医療用品の欠品が生じないよう、輸送や備蓄の強化にも投じる。

ジョンソン政権は「合意なき離脱」の可能性を発信することで、EU側を揺さぶり、アイルランド国境問題でバックストップ(安全策)削除の譲歩を迫る狙いだが、EU側は離脱案の見直しには応じない構えを崩しておらず、「合意なき離脱」を承認しないことを確認している英議会は、内閣不信任案を提出し、総選挙となる可能性が取り沙汰されている。

メイ首相時代のように、首相が「合意なき離脱」を決めても、議会が採決で阻止することは必至だ。

ジョンソン首相と議会との正面衝突は不可避の情勢である。

8月1日に行なわれたウェールズでの英下院補欠選挙で、与党・保守党は、EU残留派の野党・自由民主党に議席を奪われ、閣外協力の民主統一党(DUP)を合わせた議席数は、野党勢力をわずかに1つ、上回るだけとなった。

この結果、与党議員の一部の造反で内閣不信任案が可決しかねない状況となり、10月末の欧州連合(EU)離脱に突き進むジョンソン新政権の議会運営に暗雲が立ち込めている。

このため、ジョンソン首相は、首相の助言で女王の大権により執行される「議会停会」で反対を封じ込めようと目論んでいるといわれる。

解散含みでこの問題に臨むジョンソン首相に対し、スコットランドでは2回目の独立住民投票を求める声が高まり、その結果次第では、連合王国から抜けるという見方もある。

「合意なき離脱」となれば、北アイルランドでも英国からの分離とアイルランドとの南北統一を問う住民投票を止めることは困難になる。

ジョンソン首相は、英国の憲政史上、最短命首相となるばかりか、連合王国(英国の正式名称:グレートブリテン及び北アイルランド連合王国)の崩壊を招き、その最後の首相となる可能性も指摘されている。

ジョンソン首相は、保守党内で「合意なき離脱」を推進する強硬離脱派のみならず、残留派や穏健離脱派にも配慮して「秩序ある離脱」へ向けて、国民の意向を反映した現実的な打開策をとってほしい。



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