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総理の外交スピーチライターが明かす、G20成功の舞台裏

2019年09月11日 公開

谷口智彦(内閣官房参与)

谷口智彦写真:遠藤宏

6月末に大阪でG20が開催された。国際組織に強い不信感を持つ米国、一体感を失った欧州、求心力に欠けたG20をどうまとめ直すか、議長国である日本に世界が注目した。内閣官房参与の谷口智彦氏が、G20で日本が何を成し、評価されたかを考察。

※本稿は月刊誌『Voice』(2019年9月号)、谷口智彦氏の「G20成功の舞台裏」より一部抜粋・編集したものです。

 

面子をかけたはてしない争いの場

去る6月28日からの2日間、日本政府は大阪で、G20サミット(首脳会合)を開いた。

37の国・機関を率いる人びととそのスタッフ、各国報道関係者が、大阪南港地区の見本市施設に設けられた会場へ嵐のように来て、去って行った。世界の難問を議論する一大会議の首尾は、はたしてどうだったのか。

最大の成果は、いってしまえば控えめなものである。安倍晋三総理の差配を得て、G20の劣化を何とか食い止めたことだ。いたずらに対立を際立たせる場とせず、真っ当な協議の場としてG20を再建したことである。控えめではあっても、これは意義深い達成だった。

元来G20は、2008年、世界金融危機の深化を受け始まった一種の臨戦集団だ。創設時の趣旨は危機管理である。それゆえほとんど宿命的といおうか、平時に移ると、会議の存立意義が自明でなくなる。

3ダースもの首脳を一堂に会させるのは、共有する危機意識が深いうちはまだしも、これを平時に、かつ毎年実施するとなると、運営上の難儀は日程の調整からして計り知れない。

一度つくってしまったものを失うのは、誰もが皆、忍びないとは思う。けれども、進んで充実を図ろうとは誰も思わない。G20とは、いつしかそんな集まりと化していた。

今回は趣が違った。およそ国際組織・多国間協議なるものに根深い不信を抱くことを信条とする米国大統領が、一方にいる。他方には、既存秩序を自国へ有利に変えたい勢力がある。

欧州は筋肉質の一体性を失い、自身、内部に深まる亀裂を抱える。

分裂の機運と遠心力のみ目立つ場と化したG20に、求心性をどう与え直すか。安倍総理と日本政府はまさしくそこをテーマにした。

問題の所在――このままいくと本当にG20を失うかもしれない――は誰の目にも明らかだっただけに、支持を得られる土壌があった。

近年の不首尾が、それだけ深刻だったからだともいえる。いまや多国間協議の場には、口にし、文字にする・しないが、直ちに断絶をもたらすある種の単語がある。

国際交渉官たちがいう「レッドライン・ランゲージ」で、典型的には気候変動についてどう記すかに表れる。G20やG7は、どこまでの線(「レッドライン」)なら合意でき、どこからできないかをめぐる、面子をかけたはてしない争いの場と化した観があった。

2018年11月30日~12月1日にアルゼンチンがブエノスアイレスで開いたG20は、その格好の闘争場と化した。G20を混迷から救えるかどうか、次回議長国を担う日本のお手並み拝見と、ひそかに注目する向きが多いことは初めから明らかだった。

案の定、2日目最終日、交渉官らは朝5時まで鳩首協議を重ねたが間に合わず、発表文書の案文に合意をみたのは、最後の首脳会合開始わずかに5分前だったという。

この過程で、安倍総理とドナルド・トランプ米大統領が額を寄せ合い、真剣そのものの表情で何ごとか話し合っている様子が写真に捉えられている(未公開)。

「あらゆる参加者とそれぞれ幾度も会ったことがあり、各人の気心を知り尽くしている総理がいなければ、流会になっていたかもしれない」とは、日本側参加者が異口同音にいうところだ。

実際、事務レベルでは、最終案に合意を求めることを断念せざるをえないだろうと、一度は腹をくくったのだという。

この種の首脳会議を開いて共同文書が出せないことは、近年決して稀ではない。しかしその際は、主催国の指導力・外交力に、満座で大きな疑問符が付く。

日本は20年に一度しか回ってこない議長国を引き受けるべきときに、外交上の汚点を残さず、面目を施すことができた。安倍総理がいなかったとしてここまでできたかどうか。疑問としたのは1人や2人ではない。

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