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ドイツ皇帝が「1人で20万人分の戦果」と絶賛した日本人スパイ…明石元二郎の功績

2019年09月20日 公開
2022年01月20日 更新

茂木誠(駿台予備学校世界史科講師)

茂木誠(駿台予備学校世界史科講師)

駿台予備校の世界史講師として活躍しつつも、多数のベストセラーを世に送り出し注目を浴びる茂木誠氏。

その茂木氏が"古人類学による戦争の起源"から"21世紀の東アジアの未来"までをわかりやすく凝縮した著書、『「戦争と平和」の世界史 日本人が学ぶべきリアリズム』(TAC出版刊)を上梓した。

空気に流されず、日本人が本当にしなければならないこととは何かを問う同書では、日本人は"戦争"とどう向き合ってきたのか?  そもそも人類はいかにして"戦争"を回避しようとしてきたのか? など、「戦い」を通じて「秩序」を作り上げてきた人類の歴史の核心に迫っている。

本稿では茂木誠氏が同書でも触れた、戦争における諜報活動の重要性、明治に実在したスパイ・マスター明石元二郎の活動を語る。

 

軍事機密を共有しようというのがGSOMIA

諜報活動には、人と人との接触で得られるヒューミント(Human Intelligenceの略)、通信傍受で得られるシギント(Signals Intelligence)のほか、マスメディアやインターネット、書籍・雑誌などから公開情報を収集するオシント(Open-source Intelligenceの略)があります。

2019年8月22日、韓国の文在寅政権が、日本との軍事情報包括保護協定(GSOMIA/ジーソミア)の破棄を通告しました。

冷戦体制下で共産圏に対抗するため構築された日米韓の軍事協力体制は、日米安保条約と米韓相互防衛条約を基軸とします。歴史問題や領土問題を抱える日韓の間では軍事同盟が結べないため、せめて軍事機密を共有しようというのがGSOMIAです。

米国の強い意向を受けて朴槿恵(パク・クネ)政権時に結ばれ、具体的には韓国の情報機関が脱北者などを通じて収集した北朝鮮に関するヒューミントと、日本が偵察衛星や偵察機、イージス艦で収集したシギントとを共有するというものでした。

ところが北朝鮮との統一に前のめりになる文在寅政権は、韓国最大のヒューミント機関である国家情報院にメスを入れ、北朝鮮に関する捜査権を剥奪しました。その結果として、日韓GSOMIAで韓国からもたらされる情報は劣化していったのです。

逆に日本が提供したシギントが北朝鮮に漏洩する危険も出てきました。つまり韓国が破棄する以前から、日韓GSOMIAは有名無実化していたのです。

シギントに関しては、米軍が提供する軍事衛星の画像と自衛隊の収集情報で十分です。実際に2019年8月24日の北朝鮮の短距離弾道ミサイル発射について、韓国より先に日本が正確な情報を発表しています。日韓GSOMIAの破棄で、日本は何も困りません。

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「1人で20万人分の戦果」と激賞された、諜報の天才明石元二郎 >

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