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ブラック企業でも耐えた「氷河期世代」の悲痛な叫び

2019年10月09日 公開

平岡陽明(ひらおかようめい:作家)

 

長年に渡って満たされなかった承認欲求の爆発

――実感がこもる言葉です。平岡さん自身は、どんな半生を歩まれてきたのでしょうか。

【平岡】若いころはいくつかの出版社や会社を転々としました。とくに出版業界はブラック企業ばかりなので、深夜に働きながら「大企業の正社員と比べて、俺は何をやってるんだろう」と一日三回は思いましたね(笑)。

そのたびに「こんなことを考るのは不毛だ」と自分に言い聞かせたりして。その自己問答自体の不毛感は、半端じゃなかったです。

20代のころは「贅沢したい」「金持ちになりたい」と思わなくもなかった。でも40歳を過ぎたいま、そんなモチベーションも薄らいだ。こういうとき、「自分にとって幸福とは何か」と考え始めたら、きっと危ういと思う。言葉はよく人を騙すからです。

人間は、ときに実在しないものに名前を付けて、その幻影に振り回されてしまう。「幸福」はその最たるものだと思います。

――なるほど……。本書では、主人公が「本当の自分」なるものを探す姿が描かれています。彼もある意味では、「言葉に振り回されている」人物ですね。

【平岡】はい。でも彼は、70歳を超える先輩ライターやアスペルガー症候群の女性漫画家、同級生のヤクザライターなどとの接触に、ある意味で助けられ、自暴自棄にまではならない。

そして、ふらふらと心もとない足取りながらも、現実を受け入れて生きていく覚悟を固める。僕はそれが正しい心のアティチュード(態度)だと思います。

ニュースをみれば、中年の引きこもりが起こす事件が後を絶ちません。京都アニメーション放火の犯人も、41歳でした。40代以上の暴発が多発しているのは日本特有との見方もあるようです。

世界では10代や20代で起きる現象が、日本ではロスジェネに起きている。その原因のほとんどが、長年にわたって充たされることのなかった承認欲求の暴発です。

もう手遅れだし、やり直しはきかない。「幸福」や「本当の自分」なんて、どこにもない。だからこそ、つねに自分の心に、どこかで歯止めをかける必要があるんですね。ロスジェネはこれまでそうして生きてきたし、今後もそうやって生きていくほかない。本作の主人公も、その一人です。

話していて、つまり私は「敗者の心学」を書きたかったのだと、いま気づきました。「勝者」とは、ロスジェネとは逆の方向で自己実現した人。つまり、お金があって女性にモテる(笑)。

でもそんな人は一握りだし、それが続けば幸せとも限らない。だから「敗者の心学」は、普遍性をもちうると思うんです。

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