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米英首脳が大酷評した「フランス革命批判本」…“キワモノ”が歴史的名著となった理由



2019年10月17日 公開

佐藤健志(評論家)

 

「フランス革命の本質」を見抜いていたエドマンド・バーク

ならば『フランス革命の省察』は、話題性だけを売り物としたキワモノ本にすぎまい。けれども同書には、別の驚くべき特徴もうかがわれる。この革命がいかなる末(てんまつ)を迎えるかに関して、バークは的確に見通していたのだ。

すなわち彼は、フランスがどうにもならない混乱に陥ったあげく、軍人による独裁に行きつくだろうと言い切った。不正確な批判をしつつ、正しい結論にいち早く至る、かかる芸当はどのようにして可能になったのだろうか?

まず注目すべきは、バークが革命政府の行動をあげつらいつつも、その基本理念を批判することを真の狙いとしていた点であろう。

『フランス革命の省察』が刊行されて約3カ月後の1791年1月下旬、同書を高く評価したフランス国民議会議員フランソワ・メノンヴィルにたいし、彼は長文の手紙を書き送っている。

じつはメノンヴィル、本の内容には誤りがあるとも指摘したのだが、バークは「貴君が指摘された点、たしかにその通りかと思う」と認めたうえで、次のように述べた。

「今回の革命について所見を表明したのは、こんなふうに社会を変えるのが望ましいか、イギリス国民がきちんと判断する助けになればと願ってのことだった」

「建築にたとえるなら、現場で石がどのように積み上げられているかを観察するより、設計者がいかなる図面を引いたかを知るほうが重要だと考えた。バカげた理念を、行き当たりばったりの実践でどうにか埋め合わせようとする過程について、いちいち追いかけて何になろう。だいたいキリがない。

事態は日を追って収拾がつかなくなっている以上、革命政府は然とするようなトンデモ政策を次々と打ちださざるをえないのだ。それらをまともに論じる意味はない。革命の目標がまやかしであり、リーダーと称する連中もインチキにすぎないことが、日々証明されているだけの話ではないか」

「木を見て森を見ず」ではないものの、表面的なディテールにこだわりすぎると、事の本質は往々にしてわからなくなる。裏を返せば、バークは根源的なレベルにおいて、フランス革命のはらむ問題点を見抜いていたのだ。

バークが批判した革命の基本理念とは何か。一言で要約するなら、それは「正しい目標をめざすかぎり、社会の変化は抜本的であればあるほど良い」と見なす考え方と規定しうる。ここからは当然、「正しい目標をめざすかぎり、社会の変化は急速であればあるほど良い」という結論も導かれよう。

かくして成立するのが、いわゆる急進主義の理念にほかならない。フランス革命が真に重要なのは、「自由・平等・博愛」を謳(うた)ったことや、人権宣言を採択したことにあるのではなく、急進主義に基づく史上初の大規模な革命だったことにあるのだ。

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