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米英首脳が大酷評した「フランス革命批判本」…“キワモノ”が歴史的名著となった理由

2019年10月17日 公開
2023年01月19日 更新

佐藤健志(作家/評論家)

 

名著として読み継がれたゆえん

前提が誤っているのだから、急進主義は遅かれ早かれ挫折する運命を背負っていると評しても過言ではない。なるほど急進主義者の掲げる目標には、肯定すべき点が含まれていることが多いし、改革を実践してゆく過程では、相応の望ましい成果もあがる。

けれども時が経てば経つほど、物事を急激に変えつづけようとすることのコストや副作用がふくれ上がり、たいてい最後には「労多くして功少なし」か、下手をすれば「骨折り損のくたびれ儲け」に陥ってしまう。

また急進主義は、人間の理性や能力、あるいは社会的協調性について過大評価する傾向が強いものの、これは「実際にはできないことを『できる』と言い張る」ことに等しく、偽善や欺瞞(ぎまん)につながりやすい。

『フランス革命の省察』が名著として読み継がれたゆえんも、かかる問題点をずばり指摘したことにある。エドマンド・バークは、2世紀以上前にこう言い切った。

「国家を構築したり、そのシステムを刷新・改革したりする技術は、いわば実験科学であり、『理論上はうまくいくはずだから大丈夫』という類(たぐい)のものではない。現場の経験をちょっと積んだくらいでもダメである。

政策の真の当否は、やってみればすぐにわかるとはかぎらない。最初のうちは『百害あって一利なし』としか思えないものが、長期的にはじつに有益な結果をもたらすこともある。当初の段階における弊害こそ、のちの成功の原点だったということさえありうる。

これとは逆の事態も起こる。綿密に考案され、当初はちゃんと成果もあがっていた計画が、目も当てられない悲惨な失敗に終わる例は珍しくない。見過ごしてしまいそうなくらいに小さく、どうでもいいと片付けていた事柄が、往々にして国の盛衰を左右しかねない要因に化けたりするのだ。

政治の技術とは、かように理屈ではどうにもならぬものであり、しかも国の存立と繁栄にかかわっている以上、経験はいくらあっても足りない。もっとも賢明で鋭敏な人間が、生涯にわたって経験を積んだとしても足りないのである。

だとすれば、長年にわたって機能してきた社会システムを廃止するとか、うまくいく保証のない新しいシステムを導入・構築するとかいう場合は、『石橋を叩いて渡らない』を信条としなければならない」(第三章)

バークの主張が、フランス革命のみならず、全体主義や社会主義、あるいはわが国の「改革」「政権交代」ブームへの警鐘ともなっているのは疑いえまい。

「急進主義に基づく徹底した社会改革」をめざした点で、フランス革命はその後の「革命」全般のひな形となったわけだが、同革命を根源的なレベルで批判したことにより、『フランス革命の省察』もまた、急進主義の問題点をめぐる古典的分析となったのだった。

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