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200年前のベストセラーに見えた「フランス革命」を“罵倒”するイギリス人

2019年10月18日 公開
2023年01月19日 更新

エドマンド・バーク,〔訳〕佐藤健志(作家/評論家)

 

フランス革命は手本にならぬ

フランスの新たな自由を祝福するのは、次に挙げる事柄が検証されてからのことである。

この自由は、政府による統治といかなる形で結びついているか? 公(おおやけ)の権威は保たれているか? 軍隊は規律正しく、統帥は乱れていないか? 国の歳入、および歳出は健全か? モラルや宗教は安定しているか? 所有権は保障されているか? 平和と秩序は実現されているか? 人々の振る舞いには落ち着きが見られるか?

これらもまた、そろってプラスの価値を持つ。そしてこういった点が満たされていないとき、自由であるのは望ましいことではないし、そもそも長続きしないだろう。

自由とは、誰でもやりたいことをやって良いことを意味する。ならば祝辞を述べるのは、人々が具体的に何をするかを見てからだ。さもないと、舌の根も乾かぬうちに批判を並べるハメになりかねない。

個人の場合なら、自由になったところで何でも好き放題にやることはない。分別が働くためである。だが人々が集団で自由に振る舞うということは、彼らが傍若無人の権力を手にしたことに等しい。

だとすれば、かかる権力がどのように使われるかを見てから、賛成なり反対なりの立場を表明するのが賢明だろう。

まして今回の革命では、権力の性格そのものが一新されたうえ、いままで権力とは無縁だった者たちの手に託された。彼らの信条や性格、あるいは振る舞いについては、ほとんど何も知られていない。

あまつさえ「革命の旗手」のごとく見える連中の背後に、黒幕がいる可能性まであるときては、軽々しく「自由万歳」とは言えないのだ。

最初の返事を書いたころ、私は田舎にいたので、名誉革命協会が具体的にどんな活動をしているのか知らなかった。

ロンドンに出向いた際、同協会が刊行した講演録を入手したが、これはプライス博士(訳注:プロローグで紹介したリチャード・プライス牧師を指す)の説教を、いくつかの付属資料とあわせて収録したものである。付属資料は、ラ・ロシェフーコー公爵やエクス大司教(訳注:ともにフランスの革命派)からの手紙などであった。

講演録を読み、私は少なからず落ち着かなくなった。なぜならそれは、フランスにおける革命をわが国と結びつけ、イギリス人もフランス国民議会を手本とすべしという主張を明確に打ちだしていたのだ。

けれども国民議会が、フランスの国威、信用、繁栄、平安をいかに脅かしているかは、日々明らかになっている。この混乱を収拾するために、いかなる内容の憲法を制定し、どのような政治体制を築くべきかも見当がついてきた。

いまやわれわれは、フランス革命の本質を冷静に見きわめられる段階に達している。不用意な発言を控えて礼節を保つことは、しばしば賢明な振る舞いとなるものの、時には言うべきことを言うほうが賢明な場合もある。

イギリスにおける政治的混乱の火種は、目下ささやかなものにすぎない。しかしフランスでは、わが国と比べてもささやかな兆候しかなかったにもかかわらず、とんでもない大騒乱があっという間に起こり、天に唾(つば)するかのごとき事態となっているではないか?

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