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噂される「中国の銀行の日本参入」 問題山積の“紅船”とどう付き合うべきか?

2019年12月25日 公開
2020年01月03日 更新

柴田聡(金融庁総合政策局総務課長兼中国カントリーディレクター)

 

ささやかれる中国金融機関の「日本進出」

中国の金融市場は、すでに世界屈指の規模に成長している。

中国の銀行市場は、日本、さらにはアメリカも抜いて、2016年に世界最大となった。世界の銀行ランキングの上位には、中国系銀行がずらっと並んでいる。

株式市場は、1990年に証券取引所が設置されてから30年も経たないうちに、世界第2位の規模に成長した。最近では、日本の株価にも大きな影響を与えるようになった。

保険市場は、生命保険・損害保険ともに、日本を抜いて、米国に次ぐ世界第2位の市場に成長し、なお高成長を続けようとしている。

フィンテック分野では、アリババとテンセントが二大勢力となり、14億人の圧倒的な人口規模を背景に、わずか数年で合計ユーザーが10億人を超える巨大なモバイル決済市場が形成された。

ビッグデータを活用した先進的な金融サービスも急速に発展しており、資金決済のみならず、本人確認、資産運用、口座管理、貸出に至るまで、デジタル化の進展が著しい。

いまや中国金融市場は規模も成長性も世界トップクラスにある。日本を含む世界のグローバル金融機関は、この巨大な市場を狙って、外交も巻き込んだ激しい国際競争を展開している。

日本国内でも、国際化を図る中国金融機関が「紅船」となって日本市場に参入するのではないか、との懸念も出始めている。

 

急激すぎた成長が生んだ構造的な課題

一方、急速な成長の陰で、中国の金融にはいまだに多くの構造的課題が山積している。

地方政府や国有企業の過剰債務、過大なインフラ・不動産開発向け投資、巨額の投資マネーを集める資産管理商品(理財商品)と膨張したシャドーバンキング、巨大なリスクを抱える金融システム、資本自由化や対外開放の遅れ、法令の未整備や高い規制コストなど、挙げればキリがないほどだ。

中国の金融を的確に理解するためには、ポジティブな面だけでなく、同時にネガティブな面やリスクも正しく認識する必要がある。

筆者が中国とのご縁を頂いてから、早いもので10年が経つ。その間一貫して、日中金融協力を推進することは日本の国益にかなう、との信念をもってやってきた。

日中両国が金融分野で安定的な協力関係を構築することは、世界第2位と第3位の経済大国の関係に見合った金融の流れを創出し、日本の金融市場の活性化や発展につながっていく。

また、本邦金融機関の国際競争力の強化、3万を超える日系企業の中国ビジネスの環境整備が図られ、日本経済の成長やアジアの金融システム安定化にも寄与すると考えている。

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