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「靖国、歴史」で攻める中国・韓国…日本が引かないために必要な"意識と発信”

2020年01月16日 公開
2022年07月08日 更新

石澤靖治(学習院女子大学教授)

 

中国、韓国は共通して「歴史問題」で日本を攻める

そんななかで、結局のところ日本が国際情報・文化戦略のなかで懸案となるのは、中国と、中国との関係を重視する一方で日本の国際的地位を傷つける行為を繰り返している韓国、そしてやはり隣国でありながら、歴史的な懸案が解決していないことに加えて、日本と中国、アメリカとの関係にも影響を及ぼすロシアということになる。

中国との関係については、中国がトランプ政権による攻撃に対して受け身になっていることから日本との関係改善に動いている。そのため、2018年ごろから大きな波乱はなくなっている。だが、その状況がこのまま続くとは思えない。

韓国はかつての植民地支配と第二次大戦をめぐる問題で、日本に対してこれまでになく挑発的な態度を示している。そして中国も歴史問題においては、日本と国際的な情報戦で衝突する可能性をつねにもっている。

ロシアについても、第二次大戦で日本が奪われた北方領土について自らの正当性を主張しており、日本との認識に決定的な相違がある。

ここでロシアは措くが、中国と韓国が日本の「弱み」として、国際情報戦において第二次大戦関連で攻勢を掛けてくる場合に共通するものとして「靖国参拝」「教科書の歴史記述」がある。

それに加えて、中国では彼らが「南京大虐殺」とする「南京事件」、韓国では「従軍慰安婦」と彼らが「徴用工」と称する「戦時中の旧朝鮮半島出身労働者」の問題がある。また中国の「魚釣島」、韓国の「独島」の主張については、両国は日本の過去の歴史問題とリンクさせて戦略を展開している。

 

日本がこれから身を置くべき、アメリカではない場所

アメリカ・中国・ロシアは広い国土を有する大国であり、強い軍隊がある。一方、日本はドイツやイギリスよりも領土は広いものの、これら3国に比べればかなり小さい。また優秀な自衛隊は存在するものの、正式な意味での軍隊はない。

アメリカは覇権国であり、中国はその座を狙う野心を隠していない。ロシアはかつて東側の盟主としてアメリカと覇を競った国である。それに比べれば、日本は1980年代後半に一時、アメリカを凌ぐ国になるのでは、と言われたこともあるが、国の様々な力の点でこれらの国々と同じグループにはない。

ならば、これら3国がパブリック・ディプロマシーやシャープ・パワーなどによって国際情報・文化覇権を握ろうと争奪戦を繰り広げるなかで、日本が離れて傍観する存在であっても構わないのだろうか。

もちろん、そうではない。なぜならこれまで見てきたようにアメリカ、中国、ロシアが繰り広げているのは、物理的に殺戮が伴わないものの、情報や文化という一見ソフトなものに隠れて国益を求める「戦争」と捉えるべきものだからである。

であるならば、それに備えることや日本が当事者になりうる、ということをはっきりと意識する必要がある。

そこで必要なものの一つは、国家のアイデンティティの確立であろう。

かつてほどではないものの、日本がいまだに自分探しを続けているという現実がある。

人間にたとえれば若者が自分自身のアイデンティティを求めてもがき苦しむことは悪いことではなく、むしろその後の人格の確立のために好ましいことである。国家にとっても同様であるが、日本はそろそろ自分探しを卒業するべき時期であろう。

日本は自らのアイデンティティを確立しようとする場合、地理的かつ精神的に周囲との類似性を見出して、そこから国家や文化を定義しようとすると、難しいところがある。

筆者は、日本が主として身を置くべきはアジア環太平洋、あるいはASEAN+6(日中韓+インド・豪州・ニュージーランド)あたりだと考えている。

しかしながら日本はアジアの国ではあるものの、中国や韓国と親密な関係にあるわけではなく、東南アジアの国々が東南アジア諸国連合(ASEAN)としてつながっているような関係とは大きく異なる。

一方で遠く離れたアメリカとは同盟関係にあり、アメリカ文化の影響も一定程度受けている。そうした点から見た場合、日本は独自あるいは独特な存在の国である、ということができる。

日本はそうした独自性を認識したうえで、排他的ではないかたちで国家アイデンティティを確立する必要がある。

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