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緊迫する米・イラン、 再度「衝突」の可能性も…

2020年02月19日 公開

杉田弘毅(共同通信特別編集委員)

イランと再度衝突も

問題はイランだ。イランはこのままでは経済制裁の緩和も望めず、さらに国内経済は悪化し、国民の政府への不満も募る一方である。

トランプ氏再選の公算が高まれば、絶望が深まり軍事的な緊張を高めて揺さぶる瀬戸際戦術に出るしか術がない。あの手この手でトランプ氏を挑発し揺さぶるだろう。

もちろんイラン核合意の復活を期待できる民主党大統領が誕生しそうだとなれば、大統領選を静観するだろうが、いまのところ大統領選でイランが喜ぶ結果が出る見通しは大きいとは言えない。

すでにレバノンのイスラム教シーア派組織「ヒズボラ」の指導者ナスララ師が「動き出すときがきた」と各地のシーア派勢力に行動を促したように、今後、イラク、シリア、レバノンに拠点を置くシーア派民兵組織が対米報復攻撃を行なう可能性も大きい。

ソレイマニ司令官と一緒に幹部が殺害されたイラクのシーア派組織は何らかの報復に出ないと見るほうが不自然と言える。

これらの組織が攻撃を「自発的に行なった」と宣言し、イラン政府が「われわれは無関係」と説明しても、トランプ氏は「弱腰」を見せられない。

自らの運命がかかる選挙戦のさなか、戦争回避という冷静な判断ができるか心もとない。

また、司令官殺害を止めなかったように、いまのトランプ政権の高官たちに大統領を諫(いさ)める気概があるのかも期待できない。

こう見てくると、選挙戦の行方次第でトランプ氏が再びソレイマニ司令官殺害のときのような「最も極端な」軍事行動をとり、世界を「仰天させる」懸念はある。

米国とイランはもう一度重大な危機を招くと見て警戒する必要がある。自衛隊を中東に派遣した日本も、きな臭さがつねに漂うペルシャ湾情勢を心しておくべきだろう。

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