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"無慈悲な鉄槌"は旧世代の戦争…「血を流さない兵器」こそが導く残酷な結末



2020年02月15日 公開

喬良、王湘穂(訳 Liu Ki)

 

兵器の「慈悲化」傾向

「相互確証破壊」(MAD)という「恐怖の均衡」はこれらの思索に対する直接の産物である。

その副産物は、ますます加速する兵器殺傷能力の向上を目指す暴走車にブレーキ装置を提供し、兵器の発展が再び軽殺傷兵器さ重殺傷兵器さ超殺傷兵器という高速道路に沿って猛スピードで突っ込まないようにさせた。人々は兵器発展の新しい道を探し始め、殺傷力を有効にコントロールし始めた。

いかなる重大な技術の発明も深い文化的な背景を持っている。

1948年の国連総会で可決された「世界人権宣言」、および、その後のこれに関連する50余りの規約は、一連の人権国際基準を作り、大規模な殺傷兵器、とくに核兵器の使用が「生存権」を著しく侵害する「人類に対する犯罪」であると謳うたっている。

こうして人権などの新しい政治概念に影響され、それに国際経済の一体化が加わり、各種の社会的政治勢力の利益要求や政治的主張が混じり合い、生態環境、とくに人の生命の価値に対する「究極の関心」という考えが打ち出された。

このことは殺傷と破壊への配慮、新しい戦争価値観と新しい戦争倫理を生んだ。兵器の「慈悲化(注2)」はまさに、人類の文化的背景の大きな変遷が兵器の生産と発展に投影した反応である。

 

精密殺傷兵器と非殺人兵器の出現

同時に技術の進歩は、敵の中枢に直接打撃を加えながら、周囲に災いを及ぼさない手段を備え、勝利の獲得に多くの新たな選択肢を提供した。これによって、勝利を得る最もよい方法はコントロールであり殺傷ではないことに人々は気づくようになった。

戦争の概念、兵器の概念には変化が起き、無制限に殺傷して敵に無条件降伏を迫るという考え方は過去の時代の古くさいものとなり、戦争はベルダン戦役のような悲惨な時代と決別した。

精密殺傷(正確な命中度)兵器と非殺人(死に至らない)兵器の出現は、兵器発展の転換点となった。それは兵器が「強化」の方向へ発展するのではなく、初めて「慈悲化」の傾向を見せることを示した。

精密兵器は攻撃目標を正確に絞り、付随する殺傷を減らすことができる。あたかも血を流さずに腫瘤を切除するレーザーメスのように、それは「外科手術式」打撃などの新しい戦法を生み、戦闘を目立たない程度に抑えても十分明確な戦略的効果を収めることが可能になった。

例えば、ロシア人は移動電話を追跡するミサイル一基を使っただけで、頭痛の種だったドダエフの強硬な口を永遠に閉じさせ、ついでに小さなチェチェンが引き起こした大きな厄介事を緩和した。

非殺人兵器は敵兵士とその装備の戦闘能力を失わせながら、人間を殺さないものである(注3)。これらの兵器が体現する趨勢は、人類が極端な思考を自ら克服し、過剰な殺傷力をコントロールすることを学び始めたということを示している。

湾岸戦争の一カ月以上にわたる空爆によって死亡したイラクの民間人は1,000人程度にとどまり(注4) 、第二次世界大戦中のドレスデン空爆よりはるかに少なかった。

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目的は殺傷ではなく「兵器の麻痺と破壊」 >



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