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目的も分からず戦地に赴く兵士…「敵も味方も分からなくなった」現代の戦争

2020年02月19日 公開

喬良、王湘穂(訳 Liu Ki)

超限戦

現在テロ、サイバー攻撃など、戦争は様式を変えて領域を広げ続けている。戦争の歴史を振り返ると、常に技術革新が背景にあった。しかし、もはや技術は臨界点に達した様にみえる。これからの戦争は技術ではなく、概念に紐づいて考えると理解しやすい、と著者は主張する。

9.11同時多発テロを予言したと話題となり、米国の軍事戦略に大きな影響を与えたとされる復刊著書『超限戦』。本稿では同書より、思想が軍人、兵器、戦場を決めるようになった現代の戦争を認識するための一節を紹介する。

※本稿は喬良,王湘穂著『超限戦』(角川新書)より一部抜粋・編集したものです。

 

戦争はいつも変化している

先人たちが動物の狩猟を人類の殺戮に変えた後、戦争というこの怪物は、鎧甲を身につけ、さまざまな目的に駆り立てられた軍人たちによって血なまぐさい戦場に閉じ込められてきた。

戦争は軍人の仕事、軍人の天職である。数千年にわたって軍人、兵器、戦場はいかなる戦争においても不可欠の三つのハードウエアとなってきた。

その中に装塡されているソフトウエアとは戦争の目的である。これらは戦争の基本要素を構成し、誰もがこれに疑問を発しなかった。

しかしある日、人々は、絶対に変わらないはずのこうした戦争の要素が全くつかみにくくなってしまい、戦争の顔がぼやけてしまったことに気づいた。

 

何のために、誰のために

古代ギリシャ人にとって、トロイ戦争の目的は単純明瞭だった。ホメロスの叙事詩を歴史的真実と信じるなら、きっとヘレンの美貌は、十年にも及んだ長い戦争で奪い合うだけの価値があったのだろう。

限られた視野、狭い活動範囲、軽視されていた人の生命、兵器の殺傷力の弱さ、こうした諸々の事情によって、われわれの先人たちが行った戦争の目的は、比較的単純なものが多く、ほとんど複雑な要因はなかったと言えよう。

正常な手段で手に入らないものなら、彼らは躊躇なく非常手段に訴えてそれを自分のものにしようとした。

だからこそクラウゼビッツは、代々の軍人や政治家たちが座右の銘とする名言、「戦争は政治の継続である」を残した。

先人たちは宗教のために戦うこともあれば、豊かな牧場のために戦うこともあったであろう。香料や酒のため、国王や王妃の浮気のためにだって戦争を辞さなかった。

歴史書には香料戦争、愛人戦争、ラム酒反乱など、奇妙な戦争名が残されている。

また、イギリス人がアヘン貿易のために中国清朝に仕掛けたアヘン戦争は、恐らく文明史上最大の国家的麻薬犯罪だろう。こうした歴史を見ればわかるように、近代以前の戦争は動機と行動が単純だった。

後のヒトラーの「ドイツ民族の生存圏」や、日本人の「大東亜共栄圏」は、スローガンとしては以前の戦争の目標より多少複雑になっているように見えるが、

その実質は、新興帝国が従来の列強の勢力範囲に食い込み、植民地から利益を略奪しようとしたにすぎない。

しかし今日では、何のために戦うのかは容易に言えなくなっている。

とくに冷戦後、東西両陣営の間に横たわっていた鉄のカーテンが突然崩壊し、「革命の輸出」という理想も「共産主義の封じ込め」というスローガンも、ひとたび旗を振れば応募者が殺到するというようなかつての求心力を失い、陣営がはっきり分かれていた時代は終わった。

「誰がわれわれの敵なのか、誰がわれわれの友なのか」という革命にとっても反革命にとっても最重要の問題は、突然、曖昧になってしまった。

昨日の敵は今日の友となっており、かつての盟友が次の戦争では殺し合う関係になってしまう。

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