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『パラサイト』躍進の背景にある、アカデミー賞側の“思惑”

2020年03月17日 公開

伊藤弘了(映画研究者)

伊藤弘了第72回カンヌ国際映画祭で最高賞パルムドールを受賞したポン・ジュノ監督©2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED

今年のアカデミー賞における韓国映画『パラサイト』の大躍進は、ハリウッドが目指している変革と、少なからず関係しているようだ。映画研究者の伊藤弘了氏が、同作とアカデミー賞の意外な関係を指摘する。

本稿は月刊誌『Voice』2020年4月号、伊藤弘了氏の「『パラサイト』アカデミー賞の衝撃」より一部抜粋・編集したものです。

 

ハリウッド中心主義からの脱却

『パラサイト』はアカデミー賞の快挙に先立ち、2019年5月に行なわれた第72回カンヌ国際映画祭で韓国映画として初めてパルム・ドール(最高賞)を受賞しています。

この受賞に後押しされて、韓国代表としてアカデミー賞の国際長編映画賞にも出品されます。

『嘆きのピエタ』(キム・ギドク監督、2012年)は、ヴェネツィア国際映画祭で初めて金獅子賞を獲得した韓国映画でした。

これによって、『嘆きのピエタ』はこの年のアカデミー賞外国語映画賞(国際長編映画賞の以前の名称)に送られることになります。

カンヌ、ヴェネツィアは、ベルリンと並んで「世界三大映画祭」と称される歴史と権威を備えた国際映画祭です。これらの映画祭の結果は、ほかの映画祭や世界興行に大きな影響を及ぼします。

『嘆きのピエタ』はヴェネツィアを初めて制した韓国映画というだけでなく、三大映画祭の最高賞を初めて獲得した韓国映画でもありました。韓国映画界にとっては歴史的な作品だったのです。

しかしながら、ほぼ同格の国際映画祭で最高賞を受賞した『パラサイト』と『嘆きのピエタ』に対するアカデミー賞の反応は、まったく異なるものでした。

主要部門を含む6部門でノミネートされた『パラサイト』に対して、『嘆きのピエタ』は正式なノミネート前に発表される外国語映画賞の最終候補にすら残してもらえませんでした。

この二つの作品への評価の違いのうちに、2020年のアカデミー賞が置かれている立場を見てとることができます。一言でいえば、アカデミー賞は変わろうとしているのです。

その変化は、まさに今年から「外国語映画賞(Academy Award for Best Foreign Language Film)」の名称を「国際長編映画賞(Academy Award for Best International Feature Film)」に改めた点にあらわれています。

英語以外の言語で撮られた映画を「外国語」扱いすることは、英語中心主義、ひいてはハリウッド中心主義を露骨に表明するものでした。

そうした考え方が時代遅れであることを自覚し、名称変更に踏み切ったというわけです。

名称が変わって最初の受賞作品が『パラサイト』であり、その『パラサイト』が同時に作品賞を獲得したことは、きわめて象徴的な出来事でした。

ここには「優れた映画には国籍や言語は関係ない」というメッセージが託されています。

ポン・ジュノ監督自身、かつて非英語圏の外国語映画には「字幕の壁」が存在し、アカデミー賞は「ローカルな映画祭」だと述べたこともあります。『パラサイト』はその壁にヒビを入れたのです。

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