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現実的なエネルギー政策の議論を

2020年06月04日 公開
2020年06月05日 更新

有馬純(東京大学公共政策大学院教授)

日本の競争力が低下していく危機

──日本では多くの原子力発電所が停止中であることに加えて、化石燃料に対する目も厳しくなっている。いったいどうすればよいのでしょうか。

【有馬】もともと東日本大震災以降、原子力規制委員会(2012年9月発足)が新規制基準を施行するために、すべての原子力発電所を止めたこと自体が間違っていました。少なくとも、私はそう考えています。

新たな規制の導入に際しては、運転を認めながら徐々に対応させていくというのが、本来の規制行政のあり方ではないでしょうか。

また、新規制基準への適合性確認審査に5年も6年も要している。そんなにも被規制者を待たせるというのは、規制機関として絶対にあってはならないことです。

しかも、その間も13年に民主党政権が定めた「原子力発電の運転期間は原則40年」というルールが適用されるという。ほんとうに酷い話だと思います。

──安倍政権からも、原子力行政にまつわる具体的な話はなかなか聞こえてきません。

【有馬】もし小泉環境相が昨今のCOPのプレッシャーを受けて「2050年ネットゼロエミッション」を進めるというのであれば、原子力発電の新設が必要なはずです。ところが官邸からは、安全基準をクリアした原子力発電所の再稼働以外の話がいっさい聞こえてこない。

資源の乏しい日本において、エネルギー政策を考えるにはEnvironment(環境適合)だけでなく、Energy Security(安定供給)、経済性(Economic Efficiency)の「3つのE」を同時に踏まえなければいけません。

そしてそのためには、多様な電源を組み合わせるエネルギーミックスが求められます。いまの議論のように、「原子力はダメ」「石炭どころか火力そのものもダメ」などというのはナンセンスの極みです。

──その結果、日本はどうなりますか。

【有馬】 電力料金がさらに上がることになるでしょう。世界中で競争や紛争の度合いが増しているなか、ジオポリティクス(地政学)の観点から戦略的に国家の進路を策定する時代がきているにもかかわらず、温暖化というアジェンダ(課題)だけで国の方向を決めるのはナイーブにすぎます。

──自国の製造業を守るために何をすべきか、という議論がもっとあって然るべきですね。

【有馬】仮に日本からエネルギー多消費型の産業がなくなったとしても、世界全体で見れば、そうした産業へのニーズは依然としてあるわけです。結局、そうした産業セクターが中国に移転するだけです。

2015年の安全保障関連法案の制定の際には、安倍政権はさまざまな抵抗を受けながらも、国家のために必要だとして反対を押し切りました。

エネルギー政策はそれこそ国の基のはずです。このまま日本が崖っぷちに追い込まれていくのを座視するのは、責任ある政府のすることではありません。

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