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コロナ禍の中… 『パラサイト』監督への“厚遇”で反感を買った文大統領

2020年04月18日 公開
2021年07月12日 更新

金敬哲(ジャーナリスト)

コロナ禍の中、大統領府で昼食会

4月15日の総選挙を控え、経済政策の失敗などで窮地に追い込まれた文在寅政権を新型コロナウイルスが直撃した。韓国では、1月20日に初の感染者が発生して以来、しばらく小康状態を保っていたが、2月19日から爆発的な感染拡大が起き、社会を混乱に陥れた。

2月18日、大邱で31人目の感染者が発生したのをきっかけに、「新天地イエス教証しの幕屋聖殿」という新興宗教団体を中心に大邱と慶尚北道で深刻な集団感染が発生した。

新天地とは、聖書の「ヨハネ黙示録」に記された「イエス再臨」を歪曲解釈したとされている「時限終末論」を教理としており、韓国のカトリック教会から「異端」の判定を受けている。

このため、信徒たちは自分が新天地の信徒であることを隠し、防疫当局は新天地信徒に対する防疫に大変な困難を強いられた。結果、大邱の新天地信徒を中心に感染者が爆増、日々数百人ずつ新たな感染者が発生し、病床の不足によって死亡者も続出するようになった。

韓国社会は「コロナパニック」に陥り、国民の不安は文在寅政権に対する非難につながった。状況の深刻性を見落していた文在寅大統領の言行も、韓国メディアから批判を浴びた。

2月20日、文大統領は、ポン・ジュノ監督をはじめとする『パラサイト』の製作チームを「青瓦台」(大統領府)に招いて、昼食会を開いた。だが、その前夜に初の死者が発生したうえ、感染者が100人を超えるなど、状況が緊迫化していたことで、国民の怒りを買った。

同日の昼食テーブルには、金正淑大統領夫人がつくった「チャパグリ」が登場した。チャパグリとは、韓国風の中華料理「ジャージャー麺」のインスタント製品「チャパゲティ」と辛いうどん「ノグリ」を混ぜたものだが、映画に登場したことで世界的に有名になった。

名前をいえば韓国人の誰もが知っている有名シェフから豚肉とねぎを使った料理法を学んだという裏話も紹介された。

このイベントは、テーブルを囲んで嬉しそうに笑っている文大統領夫妻とポン監督の写真とともに紹介されたが、翌21日、『中央日報』が伝えた韓国ネット民の反応は激しかった。

「国民は死に対する不安に震えているのに、上流階級はチャパグリ・パーティーなのか」「映画より現実のほうがもっと残酷だという言葉が浮かぶ」「現実版『パラサイト』だ。彼らはパーティーの真最中で、私たちは悪戦苦闘中」。

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