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芥川賞作家・村田沙耶香が振り返る「コンビニバイトが続かない定年後の男性」



2020年05月02日 公開

村田沙耶香(小説家)

今年2月に発売された村田沙耶香さんの新刊『丸の内魔法少女ミラクリーナ』は4つの短編集。表題になった「丸の内魔法少女ミラクリーナ」は36歳・OLの主人公が、魔法少女に変身しながら、理不尽な日々を乗り越えるというストーリー。短編のひとつである「変容」は、世の中から「怒り」という感情がなくなった世界についていけず困惑する50代女性が描き出される。

一般的に、「会社」という組織に30年以上も全力を注ぐ男性は、定年後に人との関わりが一気になくなるため、女性に比べて孤立感を味わう人が多いという。「定年後」を迎えたおじさんが、変容する社会で心地よく過ごすためには、どのような価値観をもつ必要があるのだろうか。村田さんに聞いた。

本稿は月刊誌『Voice』2020年5月号、村田沙耶香氏の「定年後につける第二の仮面」の一部を抜粋し、掲載しています。

聞き手:編集部 写真:川島伸一

 

生き残るのは真っ新になれる人

――「変容」には、「いまの感覚」に取り残されて怒りを露わにする50代の女性・五十嵐さんが登場します。一般的にはママ友やご近所付き合いで地域コミュニティに属しやすいとされる女性ですら、五十嵐さんのように時代に適応できない方がいます。そう考えると、「会社」という組織に30年以上も全力を注ぐ男性は、定年後に人との関わりが一気になくなるため、より取り残される感覚が強くなるかもしれません。

【村田】難しい問題ですよね。私の父は田舎の古い人間で、母が箸を出すまでは食事に手を付けません。決して自分から取りにはいかないのです。

私が「お父さん、ごはんできてるよ」と話しかけても、「箸がない」と答える。私には、明るく朗らかで、愛情深い性格にみえる父ですら、「家事は女性がするものだ」という感覚が根強い。

私自身もほぼ中年ですが、悪気なく「早く結婚しないの?」と女性に聞いてしまう中年男性は一般的な「おじさん」というキャラクターを演じているのかな、と感じることがあります。どこまで本人の意思の言葉なのかな、と。

――そもそも村田さんは、人の価値観はどうかたちづくられると思いますか。

【村田】意識しているか否かにかかわらず、どんな情報をインプットしているかに拠るのかな、と思います。

私が「小説家」として関わるグループと、「地元の友達」の一人として属するグループでは、人びとが受け取る情報も価値観も全く異なります。

きっと「おじさん」を演じている人の周りには、同じような価値観で振る舞う男性が集まっていて、そこに溶け込もうという努力から「おじさん」というキャラクターになっているだけなのかもしれません。

――年齢と経験を積んでいるからこそ、プライドもあるでしょう。

【村田】難しいですね。私が働いていたコンビニにも定年を迎えた男性の方がアルバイトでいましたが、残念ながら早く辞めてしまう人が多かったです。単純に腰が痛いなどの物理的な理由の方もいましたが、精神的なつらさを吐露していた人もいました。

このあいだまでは会社で部下をもっていたような方々が突然、大学生に「それやっといて」と言われるのは、しんどい、というお話をしたこともありました。

でも、そうした環境に強い方も沢山いました。彼らは「僕は年はいっているけど、ここでは新人だからビシバシしごいてくださいね」とニコニコ話しかけてきてくれる。そういう人は皆が教えてあげたくなるし、その分仕事を覚えるのも早いです。

「俺、バイトなんかになっちゃったよ」と思うよりも、「いままでデスクワークばかりだったけど、これはこれで楽しいなあ」と自然と口にできる。そうやって、過去に拘ることなく、自分をあらためて真っ新新にできる方は強いなと感じます。

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