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新型肺炎、なぜ緊急事態宣言発令は遅れたのか

2020年04月21日 公開
2022年07月08日 更新

福田充(日本大学危機管理学部教授)

※画像はイメージです。

コロナ禍の中、日本政府の対応が連日メディアで報じられている。4月16日には、緊急事態宣言が全国に発令された。日本大学危機管理学部教授で、内閣官房新型インフルエンザ等対策有識者会議委員を務める福田充氏が、宣言発令が遅れた理由を指摘する。

本稿は月刊誌『Voice』2020年5月号、福田充氏の「新型肺炎、緊急事態宣言を恐れるな」より一部抜粋・編集したものです。

 

日本政府がやらねばならなかったこと

危機管理における「インテリジェンス」の次の機能は「セキュリティ」である。新型コロナウイルスのような新感染症が外国で発生した場合に、まずセキュリティ対策としてせねばならないことは水際対策である。

出入国管理における検疫、防疫体制の確立と、人の移動規制がその中心となる。しかしながら、日本の出入国管理の検疫、移動規制は後手に回ったといわざるをえない。

これは中国など諸外国との関係への配慮と、人権・自由を考慮した結果でもあり、水際対策を徹底するためのこうした課題について平常時からの合意形成が必要である。

初動において、武漢在住の在留邦人のためのチャーター機派遣や、クルーズ船対応などは、細かい戦術レベルの対応としておおむね間違っていなかった。

しかし、こうした目につきやすい、絵になる事象にテレビや新聞を通じて国民の耳目が集中したことによって、本来はもっと重要である出入国管理の検疫と移動規制の水際対策の本筋に資源が割かれなかったことのほうが問題である。

しかしながら、いずれ国内に感染症は入ってくるものであり、水際対策は完全なものではない。

水際対策を強化することによって、感染症が入ってくることを遅らせ、大量に流入することを防ぎ、その間に国内の感染症対策を強化する時間稼ぎをするのが目的である。

日本政府がやらねばならなかった最も重要な施策は、新型コロナウイルスにどのような法制度で対応するか、という点である。

1月下旬からの日本政府の検討も、国会での議論もここに集約された。新型コロナウイルスへの法的対策の選択肢は大きく分けて2つであった。

1つ目は、新型コロナウイルスを感染症分類でいうところの「指定感染症」とすることで感染症法によって対応するアプローチである。

2つ目は、新型コロナウイルスを最初から「新感染症」として指定し、新型インフルエンザ等対策特別措置法で対処するアプローチである。このどちらにするか、一月下旬の段階で決断が必要であった。

安倍政権は、前者を選択した。新型コロナウイルスを指定感染症として、感染症法による対策を2月1日施行で開始したのである。

なぜそういう意思決定がなされたか。先述したように、新型インフルエンザ等対策特別措置法は、緊急事態宣言によって外出停止や学校の休校、イベントの中止などが指示できるなど、私権を制限することが可能なきわめて強い法律であり、「伝家の宝刀」である。

これを最初から導入することを表明すれば、国民やメディアから批判や反発が発生し、感染症対策が遅れることを危惧した可能性が高いと思われる。

2点目は、新型コロナウイルスの特性から、感染力は強いものの強毒性ではなく、致死率はそれほど高くないという分析によって、強毒性を想定した新型インフルエンザ等対策特別措置法でなくても対応できる、と判断した可能性もある。

3点目として、実際に過去の事例においても2003年のSARS、2006年、2013年の鳥インフルエンザ、2014年のMERSも指定感染症として感染症法で対応できた経験から、今回の新型コロナウイルスも前例にならって指定感染症で乗り切れると判断した可能性もある。

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