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「タバコ購入からゴミ捨てまで」タダ同然で働かされる中国のデリバリー事情

2020年04月22日 公開
2023年04月17日 更新

西谷格(ノンフィクションライター)

 

ピーク時は6分に1件配達

後日、ネットニュースを見ていたら、餓了么が「ゴミ捨て代行サービス」まで始めると話題になっていた。フードデリバリーを注文すると、プラスチック容器などのゴミがかさばり、ゴミ出しを面倒に感じることもあるだろう。都市部でゴミの分別が義務化されたことも、背景にある。

食べ物を扱うドライバーがゴミ捨てを手伝うのはちょっと不衛生な気もするが、ユーザーの潜在的需要を根こそぎ汲み取ろうとする貪欲さは、さすがである。

便利屋のように「何でも配達」が可能なのは、ドライバーの人件費が安価であることが背景にあるのは間違いない。が、それにしても安すぎる気がする。いったいどうなっているのだろう。麻婆豆腐弁当を配達してくれたドライバーに電話で連絡を取り、会って話を聞いた。

配達員の男性は小柄のロン毛で、年齢は20歳。出身は内陸部の貴州省。かなりの田舎で、経済発展が遅れている地域だ。「最初は美容師になろうと思って上海に出てきたけど、儲からないのでいまの仕事に変えた。募集はネットで見つけました」

美容師時代は、まかない付きの寮生活だったが、月給は3000~4000元(4万8000~6万4000円)程度。半月で辞めて、いまの仕事に切り替えた。ドライバーの働き方は、時給ベースと完全出来高の2種類に分かれるそうで、男性は出来高で稼いでいるとのこと。

個人事業主の形態だが、グループに所属して働いているという。ピークとなる時間帯は11~13時と18~20時で、それぞれ20回ほど運び、1日40~50件をこなす。これは思ったよりも大変そうだ。

収入は1件あたり7~10元(112~160円)ほどだが、数が多いので、1日あたり300~400元(4800~6400円)、1カ月1万元(16万円)ほどになる。この数字は彼の周囲でもトップレベルに近いという。

ピーク時は6分に1件というハイペースで配達することになるが、多少割り引いて考えても、10分に1件は間違いない。分刻みのハイペースでどんどん運んでいるのだ。

電動バイクは免許不要で、ヘルメットも法的には義務付けられていない。機動力に優れ、配達効率を非常に高めている。ただし、事故が心配である。現在は上海市内の部屋を6人でルームシェアして暮らす。家賃は700元(1万1200円)。電動バイクは3300元(5万2800円)で、この仕事のために購入した。

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