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天安門事件、新型コロナ、香港デモ…騒動の裏で進む「中国共産党のメディア支配」

2020年06月04日 公開
2020年11月10日 更新

加藤青延(NHK専門解説員・武蔵野大学教授)

中国・武漢に端を発した新型コロナウイルスによる感染爆発。未曾有のパンデミックは、世界中を混乱の渦に巻き込んだ。世界各国に感染拡大した原因として、中国の隠ぺい体質がもたらした人災であるとの指摘もなされている。

新型コロナウイルスが落ち着きを見せ始めた今、香港ではデモが再燃。再開された民主化運動に、中国政府は警戒を強めている。

長年にわたり中国を専門に取材を続けてきたNHK専門解説員の加藤青延氏によると、独裁色を強める習近平政権の内部を知る上で、「天安門事件」から多くの示唆が得られるという。

天安門事件を、民主化を求める学生運動とそれを鎮圧する軍・政府という単純な対立構造だけで語るべきではないという加藤氏に、天安門事件の真相を聞いた。

※本稿は加藤青延著『目撃 天安門事件 歴史的民主化運動の真相』(PHPエディターズ・グループ)より一部抜粋・編集したものです。

 

「学生vs軍・政府」対立構造に隠された共産党内部の権力闘争

筆者は過去35年間、もっぱら東京と中国大陸のいずれかに身を置き、中国取材を専門に担当してきた。

事件が起きた1989年当初は香港特派員であったが、事件の発端となる元中国共産党総書記、胡耀邦の死去の日に北京に召集され、そのまま北京で学生の動きや天安門広場の取材をしているうちに北京駐在の辞令を受け、引き続き北京に特派員として常駐することとなった。

つまり天安門事件に至る学生デモの発生から、戒厳令の発令、解除に至るまでの全過程を現場の最前線で目の当たりにすることになったのだ。

その後30年にわたる取材の中で、それは単に民主化を求める学生運動とそれを暴力的に鎮圧する軍・政府というような単純な構図ではなく、事実上の独裁政治を維持してきた中国共産党内部のし烈な権力闘争こそが、事態を増幅かつ悪化させた根本原因ではないかと感じるようになった。

当時の指導者の間の欺瞞に満ちた駆け引きや権謀術数の数々。さらには対立する勢力の仲を取り持とうと、いずれにも巧みに取り入り、勝敗が決するまでコウモリのように立ち回るしたたかな指導者の存在など、それは現在、独裁色をさらに強める習近平政権の内部を知る上でも示唆を得ることがとても多い。

残念なことに、今日、世界で広く伝えられている天安門事件に関する情報の中には、筆者が現場で体験した事実や、これまでに収集できた多くの情報に照らし合わせると、首をかしげざるを得ないものも少なくない。

例えば、戦車の前に立ちふさがる男の姿が、あたかも当局に立ち向かう英雄であるかのように称えられ、天安門事件の象徴として紹介されることが多い。

また、民主化運動のシンボルとなった天安門広場では、最後まで広場に踏みとどまった学生・市民が、軍によってあっさりと大量虐殺されたという認識がかなり広まっている。

だが、筆者がこれまでに収集した情報を分析すると、それらはいずれも真実とは言い難い。そこで、私が実際に目の当たりにした天安門事件から、当時の中国共産党指導部の策略をうかがわせる、真相の数々を挙げていきたい。

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